シンママナースの マリアンナ です。
肝硬変などにより腹水が貯留した患者に、外科的に腹水を抜く腹腔穿刺を行うことがあります。この記事では、腹腔穿刺の実際の看護や、腹腔穿刺の目的・合併症などについて説明しています。
腹水とは
腹水とは、腹腔内に水が異常に貯留した状態です。
最近腹水で話題になったのは、管内胆管癌で亡くなられた川島なお美さんでしょうか。
末期がんだった川島なお美さんの最期は、肝がんによってかなり痩せてしまい、亡くなる直前は腹水がかなりたまっていたと報道されていました。最後にメディアに露出したときに激ヤセした写真が話題を呼びました。
わたしが看護師になってから、結構腹水の患者さんは受け持ちました。
多くは肝疾患に関連して腹水が貯留しているひとが多いです。おそらく医療従事者とかじゃなければ、あれだけおなかがパンパンになっているひとはなかなか見ることはないと思います。普通にBMIが18以下のかなり痩せているひとなのに、普通にウエスト(腹囲)は100cm以上とかザラにあります。血管も浮き出ていたりします。
腹水の原因~腹腔穿刺が必要になる病気~
腹水の原因の大半は肝硬変に関連したものが断トツで多いと思います。あとは、胃がんや肝がん、大腸がん、胆道がん、膵がん、急性膵炎などでもみられることがありますが、腹腔穿刺するくらいの腹水貯留の程度は、肝硬変の患者が著しく症状が重いイメージがあります。(これはわたしの主観も混じってますが・・)
肝硬変は、アルコール性肝炎やウイルス性肝炎によって肝臓の細胞が破壊された状態です。C型肝炎やB型肝炎によるもの、アルコール性肝硬変等が有名ですね。
肝硬変ではしばしば門脈圧亢進症を起こします。肝硬変によって門脈圧亢進症を起こすと、門脈の血圧上昇によって、タンパク質を含む体液が肝臓や腸から腹腔に漏れることがあります。本来体をめぐるはずの血液が循環しきれず、腹腔内にあふれ出てしまうような状態です。かつ肝硬変を起こし肝機能が低下すると、肝臓で行われるアルブミン合成ができなくなり、低アルブミン血症を起こします。低アルブミン血症では浮腫をきたすので、腹水を助長します。
浮腫が起こる原理については、以下の記事に詳細を記載しています。
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浮腫(むくみ)の原因とメカニズム~原因疾患の特徴と症状~
この記事では、浮腫がおこる原因とメカニズム、浮腫の原因疾患の特徴や症状、観察項目、検査データの変化などについて説明しています。
浮腫(むくみ)とは
浮腫とは一般的に「むくみ」とも呼ばれていて、顔や |
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したがって、肝硬変は著しく腹水が貯留する病気であり、腹水による呼吸困難等の弊害が起こるため、腹腔穿刺が必要になるわけです。
腹水穿刺とは~腹水穿刺の方法と目的~
腹腔穿刺とは、腹水が貯留したお腹に長い針を穿刺して、腹腔内の水分を排出する手技です。
腹水穿刺の目的
- 患者は腹水を外科的に排出することで、横隔膜が動くスペースを確保でき、呼吸が安楽になります。
- 腹水が減り腹囲が小さくなることで、ADLの向上につながります。また、食思の改善や安楽な睡眠にもつながります。
- 腹水の貯留により血管が圧迫されていた下腿などへの血流を改善できます。
腹水穿刺の方法
腹腔穿刺は医師により滅菌操作で行われます。
看護師の役目は、医師がスムーズに穿刺できるよう介助することと、患者が安全・安楽に腹腔穿刺を受けられるよう介助することです。
腹腔穿刺をおおまかな流れで言うと、エコーで腹水の状態を観察したあと、穿刺部位を決め、局所麻酔下にて穿刺を行います。穿刺して排出される排液は、滅菌バッグや病院規定の容器に破棄します。腹腔穿刺を行い、排液を出すときはクレンメで滴下調整しながら、医師が指示した量/時間で、腹水を排出します。
肝硬変による低アルブミン血症が著明で、難治性腹水の患者においては、腹腔穿刺にて腹水中のアルブミン等の栄養素を特殊な製法で取り出して、また体内に戻す「CART(腹水濾過濃縮再静注法)」という方法をとることもあります。
次の項目で準備から実際の腹腔穿刺の流れと医師の介助、看護を説明していきます。
腹水穿刺の看護:準備
※病院の規定により内容が違うことがあります。
- エコー
- メジャー
- 滅菌手袋
- 滅菌ガウン
- 穴あきドレープ
- 防水シート
- ガーゼ
- イソジン消毒液
- 局所麻酔薬
- 局所麻酔用の注射針
- 腹腔穿刺用の針
- 腹腔穿刺用排液のルート
- 腹水排液用バッグ もしくは 瓶
- テープ
腹水穿刺の看護:腹水穿刺の流れと介助
腹腔穿刺の環境整備
患者の環境を整える
- 腹腔穿刺をすることの説明を行い、同意を得る
- 排泄をすます
- 認知症患者などであれば、安全帯等危険行動がないよう準備をしておく
- 安楽な体位へポジショニングする
- 腹水穿刺前の腹囲測定
医師の環境を整える
- 体位を整えておく
- ベッドを高くしておく
穿刺部位の設定と準備
- ドクターがエコーにて腹水の状態を観察し、穿刺部位を決めるため、エコーを見やすい位置に配置する。
- 穿刺部位が決まれば、その下に防水シートをしく。
- 滅菌手袋や滅菌ガウン着用の介助を行う。
腹腔穿刺を行う(穿刺の介助)
- 腹水穿刺の部位を決めたら、局所麻酔薬で麻酔をかけるので、滅菌操作でイソジンと局所麻酔薬と針を渡す。
- 注射による痛みがあること、今から穿刺を行うことなど患者に声かけし、不安にならないよう努める。
- 局所麻酔の効果を確認できたら、腹腔穿刺用の針をわたし、医師が腹腔に穿刺する。
穿刺針の固定・ポジショニング
- 穿刺した針とルートを接続し腹水排液用バッグ もしくは瓶につなげる。
- 針が抜けないようテープやガーゼを使い固定する。
- ※検査培養に出すときは、腹水をシリンジで回収することがあります
患者への介助
- バイタルサインを測定する(腹水を突然抜いて腹圧が低下する。血圧が低下することがあるので注意)
- 安楽な体位へのポジショニング(しばらく安静時間が続くため、長時間同一体位による苦痛が生じる。体位への工夫と介助を)
- 腹水穿刺中は水分摂取など身の回りの介助を行う
腹水穿刺の合併症とリスク
腹腔穿刺で腹水排液中に患者が顔面蒼白になったら、腹腔穿刺によりショックを起こしている場合があります。その場合、ただちに医師への報告と排液の中止、緊急処置等が必要になります。
腹腔穿刺を行う場合、以下のような合併症及びリスクが考えられます。
- 腹腔穿刺により水分が腹腔に移動し、低血圧となりショックを起こす
- 肝性昏睡の誘発をすることがある
- 感染
- 出血
- 頻回な排液に伴うたんぱく質の喪失・電解質の失調