シンママナースの マリアンナ です。
グリセリン浣腸は看護技術のなかでも、誰もが経験するであろうメジャーな看護技術。意外に詳しく知られていませんが、グリセリン浣腸は誰にでもして良いわけじゃなく禁忌事項があります。また手順の中でも守るべきポイントがある、結構重要な看護技術です。この記事ではグリセリン浣腸の手順と根拠、禁忌事項や排便の観察項目と看護記録の方法まで、グリセリン浣腸に関する看護技術を紹介しています。
グリセリン浣腸とは
グリセリン浣腸とは、浸透圧が高い油性のグリセリン浣腸液を注入することによって、直腸内の水分吸収、刺激作用による腸管蠕動の亢進、浸透作用による便の軟化や潤滑化が生じて、便を排泄させる看護技術です。臨床では便秘症状が重い患者、寝たきりで排便が困難である患者などによく使われています。入院中の患者さんで、便秘がひどいひとは本当にひどいです。ほんと石みたいに便がかっちかちになっていたりするんですが、腸蠕動運動が弱いのでなかなか自力で貯まった便を排泄することができないんですね。こういうときグリセリン浣腸が結構役にたちます。適便でもとれないような、指をいれてちょうど届かないようなカチカチの便のとき、結構効果的に排便を促してくれるたりします。
以下からグリセリン浣腸の目的や副作用・禁忌などを確認しましょう。
グリセリン浣腸の目的
グリセリン浣腸の目的は、以下のような目的があるときに使用されます。
- グリセリン浣腸液の注入により、おもに直腸およびS状結腸の固形化した便を柔らかくして、排泄しやすくする。
- 腸壁を刺激することで。排便・排ガスを促す。
グリセリン浣腸の副作用
グリセリン浣腸の副作用に関しては、以下のような項目があげられます。
過敏症
- 発疹等
消化器
- 腹痛、腹鳴、腹部膨満感、直腸不快感、肛門部違和感・熱感、残便感等
循環器
- 血圧変動
グリセリン浣腸の禁忌
グリセリン浣腸には以下のような禁忌があります。
- 頭蓋内圧亢進症状がある患者、もしくは頭蓋内圧亢進する恐れがある患者
- 重症の高血圧患者、動脈瘤や心疾患がある患者
- 腹腔内炎症・腸管内出血のある患者、腸管穿孔がある患者、またはその恐れがある患者
- 腸管外漏出による腹腔炎の誘発
- 蠕動運動亢進作用による症状の増悪
- グリセリンの吸収による溶血
- 腎不全
- 下部消化管(直腸・結腸等)術後の患者
- 蠕動運動亢進作用による腸管縫合部の離解
- 全身衰弱の弱い患者
- 強制排便により衰弱状態を悪化
- ショックの原因になる
- 嘔気・嘔吐、悪心や激しい腹痛などで急性腹症が疑われる患者、血圧変動が激しいとき
- 症状の悪化
グリセリン浣腸すべき?状態によってかわる必要性の判断
排便がない患者、排便させないとういけない患者等、何かしらグリセリン浣腸が必要になったとき、本当に必要な便処置がグリセリン浣腸であるかどうかは以下のようなフローで判断します。
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グリセリン浣腸:必要物品
グリセリン浣腸の行うときの必要物品は以下の通りです。
- 処置用シーツ
- バスタオルや毛布
- 紙おむつもしくは差し込み便器
- オリーブオイルやワセリンなどの潤滑剤
- グリセリン浣腸
- ゴム手袋
- トイレットペーパー
グリセリン浣腸:準備と根拠
物品の準備
1:グリセリン浣腸液を41~42度に温める。
41~42度の温度にする根拠は?
43度以上では温度が高すぎて粘膜を損傷させる可能性があり、40度以下では毛細血管の収縮が起こる。そのため、血圧上昇や悪寒、腹痛などがみられる可能性があるため。 |
グリセリン浣腸をすぐ温める裏技
グリセリン浣腸って忙しいときに温めるのに時間がかかるから、看護師にとって準備に手がかかる看護技術ですよね。わたしはどうしても忙しすぎてグリセリン浣腸を温めている暇がないときは、グリセリン浣腸を容器ごと電子レンジでチンします。 だいたいうちの電子レンジで10秒~13秒くらいすると人肌くらいの温度になります。時間短縮できてすごく早い!ただしこの方法、限度を超えてチンしすぎると容器が爆発する恐れがあるし、絶対的に温度が42度以内だ!って言い切れないので、オススメも保障はできないのですが。電子レンジの利用は自己責任でお願いします。 |
患者の準備
次に患者の準備をしましょう。
1:患者に浣腸の必要性と方法を説明して同意を得る。処置中の不快感や苦痛があればすぐ申し出てもらうよう説明する。
2:事前に排尿してもらう。
3:カーテンを閉める等ベッドサイドを整理して、プライバシーが守られるよう配慮する。
グリセリン浣腸:看護技術の手順と根拠
実際にグリセリン浣腸を注入します。
1:患者の体位調整
- 患者を左側臥位、または左側臥位のシムス体位にする。
シムス体位
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左側臥位であるべき根拠は?
便が貯まっているのは大腸ですが、肛門から注入される浣腸の薬液がつたっていく経路は直腸からS状結腸にかけての経路です。浣腸をするときは、薬液が重力に従って下方に流れていきます。できるだけ大腸内に浣腸液を広げるためには、左側面を下にして浣腸液が直腸からS状結腸、下行結腸に流れていきやすいようにする必要があります。 もし右側臥位などで浣腸液を注入しても、ほとんど浣腸液が流れ出てきてしまうため、患者の苦痛があるわりに、浣腸の効果が半減してしまいます。 image:resource |
2:グリセリン浣腸注入の準備
- バスタオルや毛布で患者の露出を最小限にする。
- 臀部の下に処置用シーツを敷く。
- 臀部の下に紙おむつか差し込み便器を入れる。
- グリセリン浣腸の先10cmほどにオリーブオイルやワセリンなどの潤滑油を塗る。
- 患者に口呼吸を促し、腹部の力を抜くよう誘導する。
塩酸リドカインゼリー(アネトカインゼリーやキシロカインゼリー)を浣腸で使ってはいけない根拠は?
アネトカインゼリーやキシロカインゼリーで販売されている塩酸リドカインゼリーの原料は、局所麻酔薬「キシロカイン」です。キシロカインにアレルギー反応がある場合、キシロカインショックを起こす可能性があり、キシロカインショックを起こした最悪の場合、患者の状態が劇的に悪化することもあり得ます。 ⇒ キシロカインショックの訴訟事例はこちら本来キシロカインは局所麻酔を目的に使用されます。浣腸で使用する潤滑剤は、あくまでカテーテルの滑りを良くするだけが目的です。したがって、局所麻酔薬を使用する必要はありません。 |
浣腸前に口呼吸が必要な根拠は?
口呼吸は腹圧がかからないため、浣腸をより効果的に行うことができます。腹圧がかかった状態で浣腸を施行すると、グリセリン浣腸のカテーテルが挿入しにくく、また浣腸液が逆流しやすくなります。 |
3:グリセリン浣腸の注入と注入後の観察項目
- カテーテル先端を肛門から6cmまで挿入する。グリセリン浣腸のカテーテルの入れ方は、挿入時は臍に向けて進行し、徐々に腸管壁の走行に沿わせて挿入していく。
- カテーテル挿入時抵抗があるときは、一度引き抜いて再度挿入する。
- カテーテルを6cm挿入できたら、浣腸液を50mL/15秒の速さで挿入する。
- 浣腸液の注入中は、患者の不快感や腹痛、悪心、冷感などに注意する。
- 浣腸液を注入したら、カテーテルを指で圧迫しながら、粘膜を損傷しないようゆっくり引き抜く。
- 左側臥位を向いたまま肛門をトイレットペーパーなどで1~3分圧迫しながら左下腹部を軽くマッサージし、便意が最大限まで強くなるまで我慢してから排便するよう説明する。
- 排便時、排便が出にくいときは左下腹部をマッサージして、排便を促す。
- 排便後、便の性状の観察と記録を行う。(便の観察スケールについては★リンクを参照)
グリセリン浣腸の長さが6cmである根拠は?
挿入の長さのポイントは、浣腸の効果が一番有効で、かつ腸壁への刺激が少ない長さです。解剖学的にグリセリン浣腸カテーテルの長さが5cm以下の挿入の場合、直腸まで達しておらず、肛門管でカテーテルがとどまっていることになります。 image:resource肛門管で浣腸液が滞ると、肛門括約筋を刺激して早く便意を催しますが、便が貯まっている直腸には浣腸液が届いていないので、便処置の効果を得ることができません。 また6cm以上の長さのカテーテルは、屈曲しているS状結腸での腸壁損傷や直腸穿孔の恐れがあります。 したがって、浣腸をする際挿入する長さは6cmといわれています。 |
グリセリン浣腸挿入時の抵抗、原因は?
宿便や、患者が痛みを訴えるときは直腸狭窄や痔が考えられます。 |
グリセリン浣腸液を50mL/15秒の速さで挿入する根拠は?
50mL/15秒以上の速さで注入すると、理想より早く排便反射が起こってしまう。また遅すぎると患者が我慢できず、薬液のみ排出されてしまうことがあります。 |
グリセリン浣腸時、状態を観察する根拠は?
カテーテル挿入に伴う穿孔や出血、血圧変動やショックなどを予測するためです。 |
グリセリン浣腸後、左下腹部をマッサージする根拠は?
グリセリン浣腸施行後、肛門をしばらく圧迫するとともに、左側臥位のままで左下腹部をマッサージすると、浣腸液が直腸からS状結腸に染みわたり、より効果的に排便効果が得られます。 イメージしてみてください。ビニール袋にたくさん入った便に、上から薬液を注いでも全体にすぐいきわたりませんが、少しビニール袋の外側からもんでやると、薬液が便と袋のなか全体にしみわたりますよね。 浣腸液を挿入してすぐ、排便反射が起こる前までにS状結腸がある左下腹部をマッサージしてやれば、腸内の便全体に浣腸液を染み込ませることができ、より効果的に排便できます。 |
グリセリン浣腸後、便意を我慢する根拠は?
浣腸液挿入直後は、便が十分に水分を吸収して軟化できておらず、浣腸液だけが排出されてしまい、効果が半減します。浣腸液挿入後はしばらく時間をおいて便意を我慢し、便と直腸に浣腸液をいきわたらせる必要があります。 |
便の観察はスケールを使おう!:ブリストルスケールを用いた便の観察と看護記録
浣腸によって排便がでたら、便の観察を行います。便の観察をしてそれを看護記録に残すときは、必ず便の量と性状を、誰でもわかるように看護記録に残す必要があります。
便の量の観察:看護記録の表現
便の量で一番客観的な記録方法は、実際にグラム数を測定することです。グラム数を測定して記録するのが一番客観的で評価もしやすいでしょう。ただしおむつ内に失禁などもまざったりしてグラム測定が難しければ、目検で観察した便の大きさを誰でもわかるように記録します。「多量」とか「中等量」とか、ひとによって主観が入るような記録ではなく、「テニスボールほどの大きさの便」「バナナ一本分くらいの量の便」など、だれが見てもその便の大きさや量を共通したイメージで認識できる記録が必要です。
便の性状の観察:看護記録の表現
便の性状は「泥状便」や「硬便」など文字で表現するのもいいですが、看護記録であればぜひ便の性状スケール「ブリストルスケール」を活用しましょう。ブリストルスケールとは、便の性状を数字でわかりやすく表現できる便の性状スケールです。ブリストルスケールを使って排便状況を記録すれば、違う看護者がその患者の便を観察したときでも、便性状の変化をより客観的にアセスメントしていくことができます。
ブリストルスケール表
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ブリストルスケール表:印刷用PDFファイルはこちら