浮腫(むくみ)の原因とメカニズム~原因疾患の特徴と症状~



シンママナースの マリアンナ です。

この記事では、浮腫がおこる原因とメカニズム、浮腫の原因疾患の特徴や症状、観察項目、検査データの変化などについて説明しています。

浮腫(むくみ)とは

浮腫とは一般的に「むくみ」とも呼ばれていて、顔や足によく起こる腫れのような症状のことを言います。

厳密な定義は、細胞外液・組織間駅が異常に増加した状態で全体もしくは局所的に腫脹している状態をいいます。

細胞間に水が溜まっている様子

画像:PDライフを快適に過ごすために

泣きはらした次の日、瞼がパンパンになったり、歩きまくった次の日なんだか足がはれていたりしませんか?

あれがいわゆる「むくみ」、つまり浮腫を起こしている状態なんですね。

浮腫(むくみ)とは健康なひとでも条件がそろえば起こりうるものなんです。

ただ注意してほしいのは、浮腫(むくみ)は誰でも起こりうる一過性のものから、大きな病気が潜んでいるものだったりすることがあること。

 

浮腫(むくみ)が起こる原因とメカニズムを知って、病原性の浮腫(むくみ)か、一過性の浮腫(むくみ)かを見極めましょう。

 

 

浮腫(むくみ)が起こる原因とメカニズム

浮腫(むくみ)が起こるのは、先ほど挙げた通り細胞と細胞の間に水が溜まってしまうことで、張れ上がったようにみえるからですね。

なぜ細胞間に水がたまるんでしょうか。局所的メカニズム、全身的メカニズムにフォーカスして説明します。

 



局所性による浮腫のメカニズム

足だけ、とか顔だけ、という風に体の一部分にできる浮腫は「局所性因子」に分類されます。

浮腫が起こっている部分にはどのようなことが起こっているのでしょうか。

局所性因子の浮腫が起こる具体的な原因は以下の4つがあげられます。

 

毛細血管壁の透過性亢進

炎症や、外傷、じんましん、アレルギーなどにより、毛細血管壁の透過性が増す。簡単に言いすぎますけど、血管がスカスカになったような状態とでもいいましょうか。

厳密にいうと、血管壁の内皮細胞が傷害されることで、血管の透過性が増大します。本来はとても小さい血管の穴が、大きくなった状態です。すると血漿のたんぱくが血管の外にでてしまうんです。

毛細血管壁の透過性亢進

画像:薬局実習.com

 

これは血管内の水分を維持する血漿の膠質浸透圧(血漿中のたんぱく質の量で決まる圧のこと)が低下した状態になります。

膠質浸透圧は、血管内の水分維持をコントロールしていますから、

血管内に水分を維持できなくなった結果、血管外に水分があふれ出して浮腫を起こします。

 

毛細血管内圧の上昇

浮腫の原因のひとつとして、「毛細血管内圧の上昇」です。難しく聞こえますが、血管圧のことです。

毛細血管の血圧が上昇すると、血管から水分が外へあふれ出て、細胞間にしみこみます。基本的に血管内の水分が多くなって血管圧が高くなると、静脈から水分があふれ出て、その近くの細胞の近くに水分が逃げ込んで浮腫になります。毛細血管内圧が上昇する原因は、うっ血、心不全、静脈閉塞などがあります。厳密にいうと血管圧の具体的な数値によって、どれくらいの血管圧なら浮腫になるか、という数値がありますが、そこまで細かいことはここでは必要ないかな、と思い割愛します。静脈の毛細血管圧が上がると、血管外へ水分があふれ出てしまうことをイメージしてください。

 

血漿膠質浸透圧の低下と組織間液膠質浸透圧の上昇

血漿膠質浸透圧が低下する、とはアルブミンの濃度が異常に下がった状態のことをいいます。タンパク質が少なくなる栄養失調や肝硬変、ネフローゼ症候群などでみられます。アルブミンが減少し血漿膠質浸透圧が低下すると、毛細血管から血管外に漏れ出た水分の回収できなくなり、また血管内の水分を維持できなくなることから、腹水や浮腫がおこります。また組織間液膠質浸透圧(血管外の組織における膠質浸透圧=水分を維持する圧のこと)が上昇しても、組織が水分を引き留める力が強くなるため、浮腫の増悪となります。

 

リンパ流のうっ滞

一度血管の外に出た水分は、90%が血管にまた回収されます。残り10%は、リンパ管に回収されます。リンパ管に回収された水分は、静脈に合流してまた血管内に戻されてきます。何らかの理由でリンパの流れが悪い、もしくは閉塞している場合、この10%の水分回収が上手くいかずに、浮腫をきたすことになります。リンパ周囲の悪性腫瘍、手術によるリンパ郭清、放射線治療などが原因で起こります。

 

 



全身性による浮腫のメカニズム

局所的に浮腫が起こるのと対照的に、全身に浮腫がおこることがあります。

全身性因子」の浮腫とその鑑別について説明します。

 

心臓性浮腫

心臓のポンプ機能が低下し、静脈内圧が上昇するため、浮腫をきたします。また心臓のポンプ機能低下に伴い、腎臓への血流量が低下します。そのため、腎臓はレニンを分泌し、Naと水の再吸収機能が増えます。循環血漿量を増加させて腎血流量を維持しようとしますが、同時に毛細血管内圧も上昇してしまうのです。

発生しやすい部位

夕方以降足に出やすい。座位では下腹部に、仰臥位では背部に出やすい。つねに体の下になる部分に浮腫がでてくる。レントゲンで胸水がでてくることも。

心臓性浮腫の症状、特徴

咳嗽、喀痰、呼吸困難、倦怠感、易疲労感、四肢冷感、頸動脈怒張、肝腫脹等

血液データの特徴

  • Na低下
  • たんぱく量低下

尿の変化

  • たんぱく尿
  • 尿比重増加

 

ネフローゼ性浮腫

ネフローゼ症候群とは、腎臓のたんぱく質をキャッチする糸球体という部分が障害され、タンパク質が尿から流れ出てしまう状態です。タンパク質が過度に流出することから、低たんぱく血症となり、膠質浸透圧が低下(血漿膠質浸透圧の低下と組織間液膠質浸透圧の上昇 参照)して、浮腫をきたします。

発生しやすい部位

全身(腹水・胸水)に高度に出現する

ネフローゼ性浮腫の症状、特徴

高度なたんぱく尿

血液データの特徴

  • タンパク質低下
  • コレステロール上昇

尿の変化

  • たんぱく尿

 

腎性浮腫

腎不全や腎炎などで糸球体が障害されると、水分やNaをろ過できなくなります。余剰な水分とNaは細胞間に流れていき、浮腫をきたします。

発生しやすい部位

主に顔、眼瞼などに出現するが、重力などにより移動性がある

腎性浮腫の症状、特徴

血尿、高血圧をきたす

血液データの特徴

  • タンパク質低下

尿の変化

  • たんぱく尿
  • 赤血球

 

肝性浮腫

肝臓にはタンパク質(アルブミン)を合成する機能があります。肝硬変などによって肝機能が低下した場合、このたんぱく質合成の機能も低下します。

低タンパク質血症をきたすと浮腫をきたします。(血漿膠質浸透圧の低下と組織間液膠質浸透圧の上昇 参照)

また、門脈圧亢進により、血漿中の水分やリンパ液が腹腔内に漏出して腹水を生じます。

発生しやすい部位

肝硬変は全身性浮腫及び腹水が著明

肝性浮腫の症状、特徴

ときに黄疸が出現し、肝腫脹がみられる

血液データの特徴

  • タンパク質低下
  • Na低下
  • K低下
  • グロブリン上昇
  • 肝機能低下

尿の変化

  • ビリルビン尿

 

内分泌性浮腫:粘液水腫

甲状腺機能低下によっておこります。ムコたんぱくによって間質液が増加し、浮腫をきたします。

発生しやすい部位

緊満性で圧痕が残らない

内分泌性浮腫:粘液水腫の症状、特徴

知的障害、遅脈、肥満

血液データの特徴

  • コレステロール低下
  • T4低下

尿の変化

  • 正常

 

内分泌性浮腫:クッシング症状群

副腎皮質機能が亢進し、アルドステロンの分泌が増加して、水分やNaの貯留に影響します。持続性高血圧による血管性因子も関連しているといわれています。

発生しやすい部位

下半身に出現

尿の変化

  • 正常

 

内分泌性浮腫:月経(生理)前浮腫

エストロゲン、プロゲステロン等の女性ホルモン分泌が増加したり、バランスが崩れることで、浮腫が生じる。

内分泌性浮腫:月経(生理)前浮腫の症状、特徴

月経(生理)10日前から発生し、月経開始とともに消失していく。

 

栄養障害性浮腫

飢餓、悪性腫瘍、貧血、慢性下痢、吸収不良症候群などから起こる低たんぱく血症により、浮腫が起きます。

発生しやすい部位

主に下半身であるが、寝たきりなどで仰臥位の場合、背中にできるなど、下側にできる

栄養障害性浮腫の症状、特徴

圧痕が残る。4~5か月間の飢餓ののち、生じてくる。

血液データの特徴

  • コレステロール低下
  • タンパク質低下

尿の変化

  • 正常

 

妊娠時浮腫

妊娠による副腎機能亢進、胎盤機能亢進により、アルドステロンやアンドロゲンなどの分泌が増加するため、妊婦には浮腫が起こります。また、子宮増大による血流障害により浮腫が増悪します。

発生しやすい部位

主に下半身であるが、仰臥位の場合、背中にできるなど下側にできる

栄養障害性浮腫の症状、特徴

妊娠末期に増悪

血液データの特徴

  • 正常

尿の変化

  • 正常 ときに 蛋白尿

 

薬物性浮腫

薬物によるアレルギー反応、薬物による肝機能、腎機能の障害によって浮腫を起こすことがある。ステロイド薬、ホルモン製剤、非ステロイド性抗炎症薬などを内服しているときも浮腫を生じることがある。

浮腫の程度や特徴は、個人差がある。

 

コラム:泣いたあとに目が腫れる原因

泣いたあとに目が腫れるのは、こすりすぎなどの説もありますが、この毛細血管内圧の上昇が関連していると思います。涙は涙腺内の毛細血管から得た血液から生成されます。人間は通常、目の保護程度の涙量(1日平均2-3cc)は作られていますが、感情が高ぶり涙をたくさん流すと、涙腺はいつもよりたくさんの涙を作り出す必要があります。すると目周囲に血流が多く流れてきますよね。泣きそうになったとき、カーッと目周囲が熱く感じるのも、このせいでしょう。血液がたくさん集まることで、目周囲の毛細血管内圧が上昇しますから、余分な水分は血管外へあふれ出て、目が腫れてしまうのは、自然な症状といえるでしょう。