ヘンダーソンの基本的欲求14項目:各項目のアセスメントと観察項目



シンママナースの マリアンナ です。

この記事では「ヘンダーソンの基本的欲求14項目」とはなにか、また14項目に沿った観察項目とアセスメントポイントを紹介しています。看護を学ぶうえで外せない看護の枠組みといえば「ヘンダーソンの基本的欲求14項目」です。基本的欲求14項目とは、ヴァージニア・ヘンダーソンが説いた患者の全体像を捉えるための「呼吸・飲食・排泄・姿勢・体位・休息・睡眠 ・衣類 ・体温・清潔 ・危険・安全 ・コミュニケーション・信仰・職業・役割・レクリエーション・学習」のことで、これらの充足が看護に重要であるとヘンダーソンは述べています。具体的に「ヘンダーソンの基本的欲求14項目」とはなにか、観察とアセスメントの焦点はなにかを理解していきましょう。

 



ヘンダーソンって誰だ?

看護学校ではしばしばヘンダーソンの14項目という枠組みを使って、看護過程を勉強することがあります。

でもそもそもヘンダーソンって誰?ってわたしは看護学校に入ったとき、思いました。

ヘンダーソンとは、ヴァージニア・A・ヘンダーソン (Virginia Avenel Henderson:1897/11/30~1996/3/19)とは、アメリカの看護師、看護教員だった方です。理学療法士に関わりで患者が自立していく姿を見て、当時の機械的な看護に疑問を持った彼女は、「基本的欲求・患者の個別性に合わせた援助の必要性・患者の独立性(自立)」の3つを基盤にして独自の看護観と作り上げました。それらは彼女の著書「看護論」「看護の基本となるもの」に記されています。



ヘンダーソンが考える看護とは~看護の基本となるもの~

ヘンダーソンの「看護の基本となるもの」はわたしも読みましたが、とっても長くて翻訳した内容なので読みにくかったのがわたしの本音です(笑)。

ヘンダーソンの看護ってじゃあどんなのよ!っていうのを簡単にまとめると、ヘンダーソンは看護の基盤に「基本的欲求・患者の個別性に合わせた援助の必要性・患者の独立性(自立)」の3つがあって、その上にある看護の基本的な概念は基本的欲求を持つその人自体である「人間」と、その人間を取り巻く「環境」その人自体の「健康」その人にアプローチする「看護」の4つが基礎となって自立へ導くのだ、ということです。言葉にすると難しい。図にしたらこんな感じ。

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ヘンダーソンが考える看護とは、患者が自立して生活できるように援助することが看護の前提であり、患者が自立できるためには患者自身を表す「人間」や「健康」、患者をとりまく「環境」や「看護」が重要な柱であること、またこれらに対して看護師が働きかけることが大切だよってことですね。



ヘンダーソンの看護:基本的欲求14項目

ヘンダーソンは患者自身を表す「人間」や「健康」、患者をとりまく「環境」や「看護」を評価しやすいよう、枠組みを作っています。それがヘンダーソンの基本的欲求14項目です。ヘンダーソンは看護において、看護の構成要素である以下の基本的欲求14の項目が重要であることを説きました。

ヘンダーソンの基本的欲求14項目

  1. 患者の呼吸を助ける。
  2. 患者の飲食を助ける。
  3. 患者の排泄を助ける。
  4. 歩行時および座位、臥位に際して患者が望ましい姿勢を保持するよう援助する。また患者がひとつの体位からほかの体位へと体を動かすのを助ける。
  5. 患者の休息と睡眠を助ける。
  6. 患者が衣類を選択し、着脱するのを助ける。
  7. 患者が体温を正常範囲内に保つのを助ける。
  8. 患者が体を清潔に保ち、身だしなみよく、また皮膚を保護するのを助ける。
  9. 患者が環境の危険を避けるのを助ける。また感染や暴力など特定の患者がもたらすかもしれない危険からほかの者を助ける。
  10. 患者が他者に意思を伝達し、自分の欲求や気持ちを表現するのを助ける。
  11. 患者が自分の信仰を実践する。あるいは自分の善悪の考えに従って行動するのを助ける。
  12. 患者の生産的な活動あるいは職業を助ける。
  13. 患者のレクリエーション活動を助ける。
  14. 患者が学習するのを助ける。

14項目の優先順位と構成のベース

基本的欲求14項目、構成のベース

心理学を学んでいたヘンダーソンは、この基本的欲求14項目を作るベースに「マズローの欲求5段階」を使用しているといわれています。

マズローの欲求5段階

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14項目の優先順位

マズローの欲求5段階は、人間の欲求に関する心理状態を生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、尊厳欲求、自己実現欲求の5段階に分け、下位層が満たされることで上位の欲求が生じてくることを説いています。ヘンダーソンが提案した基本的欲求14項目もマズローの5段階欲求に類似しています。

マズロー ヘンダーソン
基本的欲求14項目
生理的欲求 1~7
安全欲求 8、9
社会的欲求 10
尊厳欲求 11
自己実現欲 12~14

マズローの提案した欲求5段階は、生命の欲求である下位層の欲求から満たされていくことが重要であるのに対して、ヘンダーソンの基本的欲求も生理的欲求である1の呼吸から順に満たされていくことが重要です。ヘンダーソンの14項目について、優先順位が分かりにくい時は、マズローからおさえていくといいかもしれません。

ヘンダーソンの14項目を使って患者をアセスメントするときも、生理的欲求の充足から優先して1から順にアセスメントしていくのが良いと思います。

 



ヘンダーソンの各14項目:アセスメントと観察項目のポイント

看護学校ではヘンダーソンの基本的欲求14項目に沿ってアセスメントを行い、看護展開していくことがあります。この14項目に沿ってアセスメントすることで、患者の全体像をもれることなく捉えられるからですね。ヘンダーソンの基本的欲求14項目に沿ったアセスメントと看護診断のポイントをまとめています。

1.呼吸

呼吸:アセスメントの焦点

  • 呼吸状態を評価する。
  • 正常な呼吸状態であるか、検査データで評価する。

呼吸の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 息苦しさの有無
  • 労作時の呼吸の変化
  • 息切れなどの症状はないか、あればどのようなときか
  • 呼吸や他症状と関連はないか
  • 喫煙の有無と量、喫煙に関する健康認識
  • 咳や痰はないか

呼吸の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 呼吸数、呼吸困難の有無
  • 呼吸パターン
  • 呼吸機能検査の結果
  • 血液ガスの結果
  • 肺の雑音
  • 呼吸音
  • 酸素療法の有無
  • 呼吸器の手術や治療をうけていないか
  • 気道閉塞する要因はないか

2.飲食

飲食:アセスメントの焦点

  • 安全に飲食ができるか評価する。
  • 患者に必要な栄養を摂取できているか評価する。

飲食の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 入院前の食事習慣(時間や回数、種類、内容、間食)
  • 水分や食べ物の摂取量
  • 好き嫌いの有無
  • 嗜好品
  • 嚥下障害の有無
  • 嘔気、嘔吐の有無
  • 体重の変化
  • 食欲の有無
  • 食事制限の有無
  • 必要なエネルギーを摂取できているか
  • (患者が母子のとき)母子の栄養は満たされているか
  • 嗜好や好き嫌いはないか
  • 治療食を守ることができているか
  • 食習慣や思考、宗教上食べられないもの、アレルギーの有無などはないか

飲食の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 栄養状態(肥満度、体重、身長)
  • 血液検査(タンパク質、アルブミン、ヘモグロビンなどの変化)
  • 病院での食事摂取状況、間食の有無
  • 水分摂取
  • 消化、吸収能力の状態
  • 咀嚼嚥下の状態
  • 皮膚の状態
  • 口腔粘膜の状態
  • 義歯の有無

3.排泄

排泄:アセスメントの焦点

  • 排尿、排便の間隔等から適切に排泄行動ができているかをする。
  • 排泄物から客観的に排泄機能を評価する。

排泄の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 入院前の排泄習慣、排泄障害はないか
  • 発汗の有無
  • わきがなどの体臭
  • 尿漏れの有無

排泄の観察項目:客観的情報・測定値等

  • ドレーン、吸引
  • 排便パターン、回数、性状、量
  • 排尿パターン、回数、性状、量、色
  • 腎機能の検査結果
  • 水分バランス
  • 排泄時の不快感の有無
  • 失禁の有無

4.姿勢・活動

姿勢・活動:アセスメントの焦点

  • 不適切な姿勢で身体に悪い影響を与えていないか評価する。
  • 患者にとって適切な体位をとれているか評価する。

姿勢・活動の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • ADLの状態
  • 運動習慣や活動時に自覚症状はなかったか
  • 生活様式(1日の過ごし方)

姿勢・活動の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 歩行、姿勢、補助装具、自助具
  • 日常生活動作の評価、セルフケアの評価、MMTの評価
  • 食べものの摂取、行為、入浴、身づくろい、整容、排泄、家事、調理、寝返り、買い物
  • 手足の可動性、身体障害の有無
  • 動作前後のバイタルサインの変化や自覚症状
  • 拘縮の有無
  • 心機能や腎機能、肝機能、呼吸機能の検査結果

5.休息・睡眠

休息・睡眠:アセスメントの焦点

  • 充分な睡眠がとれているか評価する。
  • 環境の変化や疾病の影響にかかわる睡眠パターンに変化はないか評価する。

休息・睡眠の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 家庭での睡眠時間、睡眠パターン
  • 寝つく時間
  • 眠りの深さ
  • 睡眠を妨げる因子
  • 常用薬の有無と種類、量
  • 日常生活の睡眠への影響

休息・睡眠の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 睡眠時間
  • 時間帯
  • 睡眠状態と変化

6.衣類

衣類:アセスメントの焦点

  • 患者に合った適切な衣服を着用しているか評価する。
  • 患者の好みの衣服であるか、また保護的に機能している衣服か評価する。

衣類の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 清潔であるか
  • 動きやすい、快適、爽快感がある衣服か
  • 好みにあっているか

衣類の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 暑さや寒さへの対処
  • きちんとした身づくろい
  • TPOにあった衣服の適正
  • 生活行動上の適性
  • 成長発達に適した服
  • 機能面での適切性
  • 衣服の種類
  • 着脱行為の自立度

7.体温

体温:アセスメントの焦点

  • 体温が正常範囲内に保たれているか評価する。

体温の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 暑さ、寒さに対する身体的な苦痛はないか
  • 手足の冷感はないか
  • 共通はないか
  • 暑がりか、寒がりか

体温の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 体温・脈拍・血圧
  • 体温に変化を与える環境因子
  • 体温や保護のための適切な衣類の選択
  • 寝具の選択
  • 食事や活動による体温の変化
  • 直射日光やすきま風
  • 室温、湿度の調節
  • 安静度

8.清潔

清潔:アセスメントの焦点

  • 身だしなみや姿勢を評価する。

清潔の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 皮膚、毛髪、爪、鼻、口腔、歯の不快感はないか
  • 保清を自立して行えているか

清潔の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 皮膚・毛髪・爪・鼻・口腔・歯・耳等
  • 環境にあった身だしなみができているか
  • 清潔行動のADL
  • 身だしなみの程度

9.安全

安全:アセスメントの焦点

  • 患者が自分で環境調整できるかどうかを評価する。
  • 患者が自分に起こる危険を察知できているか評価する。
  • 保護的手段がない患者や自殺願望がある患者の安全を評価をする。

安全の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 入院生活の受け入れ具合
  • 危険場所の認識があるか
  • 危険防止の認識があるか
  • 皮膚粘膜の損傷はないか
  • 環境調節は自分でできているか
  • 夜間騒がれる、危険行動がある同室者等からの不利益はないか
  • 感染から安全が守られているか
  • 安全を守るための指導は受けられる状態か

安全の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 安全帯の有無と必要性
  • 療養環境の安全
  • 物品の消毒や定期的な交換
  • 感染予防対策は適切に行われているか
  • 面会者の適切な制限がされているか
  • 皮膚粘膜損傷の部位

10.コミュニケーション

コミュニケーション:アセスメントの焦点

  • 情緒の変化によって、頻脈や呼吸速迫などの身体的症状がでていないかを評価する。
  • レクリエーションなどに参加したときの患者の表情や発言を評価する。

コミュニケーションの観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 自己表現ができ、それに対して満足感を得ているか
  • 悩みを心配事を話せる環境にあるか
  • 困っていることはないか
  • 会話に不自由はないか
  • 印刷物をみたり、よんだりできるか
  • 眼鏡や補聴器を適切に使用できているか

コミュニケーションの観察項目:客観的情報・測定値等

  • 非言語コミュニケーションの表出
  • 患者・家族の人間関係
  • キーパーソンの存在
  • 面会者とその頻度
  • 面会者との関係
  • 視力、聴力の程度
  • 認知症の程度

11.信仰

信仰:アセスメントの焦点

  • 宗教上の自由が満たされているか評価する。
  • 宗教の教えに従って行動する患者の権利が守られているか評価する。
  • 信仰によった日常生活上の権利が守られているか評価する。

信仰の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 患者の考え方や思考
  • 宗教が影響する入院治療はないか
  • 宗教に基づいた生活をするために援助できることはないか
  • 入院生活の中で信仰を持った生活に対する葛藤
  • 信仰している宗教

信仰の観察項目:客観的情報・測定値等

  • その患者の宗教に基づいた生活はどんなものか
  • その患者の療養にとって不健康な信念に基づいた生活はないか
  • 療養生活での宗教による規制(禁止食べ物、輸血の禁止等)

12.職業・役割

職業・役割:アセスメントの焦点

  • 生産的な活動や職業に対する考えにともなった生活ができているか評価する。
  • 仕事や自分の役割に満足感を感じているか評価する。

職業・役割の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 仕事への興味、関心
  • 職場への期待
  • 仕事・役割に対してマイナス思考になっていないか
  • 入院生活が仕事や役割に影響を及ぼすことへの不安
  • 職場や役割への満足感
  • 身体的・生産的活動ができているかどうか
  • 社会や他者に認められたいと思う欲求はあるか

職業・役割の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 疾患に伴う精神的・身体的能力の限界
  • 離職期間や休職期間など役割を遂行できない期間
  • リハビリの進行の状態
  • 1日を価値ある一日として過ごせているか
  • 役割をおこなっているときの表情

13.レクリエーション

レクリエーション:アセスメントの焦点

  • 患者がレクリエーションや気分転換する機会を保てているか評価する。

レクリエーションの観察項目:主観的情報・基礎情報

  • レクリエーションに対する興味
  • 健康時のレクリエーション方法
  • 趣味
  • 入院中行える気分転換はあるか

レクリエーションの観察項目:客観的情報・測定値等

  • 気分転換やレクリエーションのための物質的環境の提供
  • 患者の趣味やこれまでやってきたこと
  • レクリエーションが可能かどうかの機能の程度
  • 性格

14.学習

学習:アセスメントの焦点

  • 健康回復に向けて学習意欲や能力を備えているかを評価する。
  • 病気によって不健康な生活になっていないか評価する。
  • 患者へのインフォームドコンセントが正しく行われているか評価する。
  • 健康教育が適切に行えているか評価する。
  • 経済や介護力の問題などが、患者の健康回復に対する学習を阻害していないか評価する。

学習の観察項目:主観的情報・基礎情報

  • 病気に対する学習が出来ているか
  • 入院前の健康状態
  • 治療上の指示を守ることができるか
  • 治療方法について理解ができているか
  • 病気に対する認識があるか
  • 学ぶ意欲はあるか
  • 発達段階に応じた指導がされているか

学習の観察項目:客観的情報・測定値等

  • 健康に対する理解度
  • 発達段階
  • 認知力
  • 精神状態