シンママナースの マリアンナ です。
この記事ではせん妄の評価からせん妄の看護、看護計画まで解説しています。せん妄は一般外科病棟で10~15%、内科病棟で15 ~25%いるといわれている、一過性の精神症状です。認知症や精神疾患と症状の区別がつきにくいですが、見極めにはいくつかのポイントがあります。せん妄のアセスメントから看護のポイントまで紹介しています。
- スタンダートな看護計画はほとんどこれで網羅できる。
- 患者によく起こる症状とその看護が根拠とともに書かれていて、わかりやすい。
せん妄とは~せん妄の症状と特徴~
せん妄とは、「脳機能の失調によって起こる、注意障害を伴った意識混濁をベースとする症候群」であり、その特徴は発症が急激、症状が時間帯によっても変化し、可逆性(つまり治るってこと)であること、とされています。
認知症や精神疾患と症状が似てるので、一見認知症上とか精神疾患とかにみられることもありますが、せん妄とはあくまで一時的で条件さえそろえばだれでも起こりうる状態といえる。例えば術後せん妄とかは、高齢者に限らず、比較的若年層でも起こることがありますよね。術後せん妄や頭部外傷で起こすせん妄なんかは、一時的にせん妄特有の幻視、妄想、興奮状態等がおこることがあっても、時間がたって状態が安定すれば症状も収まってきます。
誰でも起こす可能性があるせん妄ですが、特に高齢者の場合、認知症や基礎疾患が影響してせん妄を起こしやすい。入院する高齢者とかだと環境の変化も加わって、心身機能低下、社会適応力が低下している高齢者は、せん妄のリスクがさらに高まります。せん妄は認知症や精神疾患とは違うので、対処法や処置も変わってくるし、看護師としてせん妄を見極めるアセスメントがとても重要になります。
せん妄と認知症の違い
せん妄と認知症の決定的な違いは以下の通りです。
せん妄 | 認知症 | |
発症 | 急激 | 徐々に進行 |
持続期間 | 数日~数週間 | 永続的 |
原因 | 病態や環境などの要因 | 慢性的脳疾患 |
経過 | 可逆的 | 進行性 |
時間帯 | 夕方~夜間に悪化 | せん妄ほど時間差がない |
注意 | 高度な障害 | 認知症の進行状態に基づく |
医療的ケアの必要性 | 迅速に必要である | 必要であっても緊急性が低い |
アセスメントツール
せん妄を判断するツールとして、Delirium Screening Tool(DST)があります。簡単にせん妄を評価することができ、臨床でもつかいやすいアセスメントツールです。評価のルールとして、アナムネ、家族情報などから得られる全ての情報を用いて評価する。少なくとも24時間を振り返って評価する(せん妄症状は時間帯によって変動があるため)。
Delirium Screening Tool(DST)とは、
- 「A:意識・覚醒・環境認識のレベル」:7項目
- 「B:認知の変化」:2項目
- 「C:症状の変動」:2項目
の3系列・11下位項目から成る観察形式のアセスメント・ツールです。
ABCの項目で1つでも該当する場合、 A → B → Cと進んでチェックしていき、最終系列Cで該当があれば、「せん妄の可能性あり」と評価できます。
Delirium Screening Tool(DST)
A項目
- 現実感覚
夢と現実の区別がつかなかったり、物を見間違えたりする。例えば、ゴミ箱がトイレに、寝具や点滴のビンがほかのものに、さらに天井のシミが虫に見えたりなど。
- 活動性の低下
話しかけても反応しなかったり、会話など人とのやりとりがおっくうに見えたり、視線を避けようとしたりする。一見すると「うつ状態」のように見える。
- 興奮
ソワソワして落ち着きがなかったり、不安な表情を示したりする。あるいは、点滴を抜いてしまったり、興奮し暴力をふるったりする。ときに、鎮静処置を必要とすることがある。
- 気分の変動
涙もろかったり、怒りっぽかったり、焦りやすかったりする。あるいは、実際に、泣いたり、怒ったりするなど感情が不安定である。
- 睡眠-覚醒のリズム
日中の居眠りと夜間の睡眠障害などにより、昼夜が逆転していたり、あるいは、一日中、明らかな傾眠状態にあり、話しかけてもうとうとしていたりする。
- 妄想
最近新たに始まった妄想(誤った考えを固く信じている状態)がある。例えば、家族や看護師がいじめると言ったり、医者に殺されるなどと言ったりする。
- 幻覚
幻覚がある。現実にはない声や音が聞こえる。実在しないものが見える。現実的にはありえない、不快な味や臭いを訴える(口がいつもにがい・しぶい、イヤな臭いがするなど)。身体に虫が這っているなどと言う。
B.認知の変化
- 見当識障害
見当識(時間・場所、人物などに関する認識)障害がある。例えば、昼なのに夜だと思ったり、病院にいるのに、自分の家だと言うなど、自分がどこにいるのかわからなくなったり、看護スタッフを孫だと言うなど、身近な人の区別がつかなかったりする。
- 記憶障害
最近、急激に始まった記憶の障害がある。例えば、過去の出来事を思い出せない。さっき起こったことも忘れる。
C.症状の変動
- 現在の精神症状の発症パターン
現在ある精神症状は、数日から数週間前に、急激に始まった。あるいは、急激に変化した。
- 症状の変動性
現在の精神症状は、1日の内でも出たり引っ込んだりする。例えば、昼頃は精神症状や問題行動もなく過ごすが、夕方から夜間にかけて悪化するなど。
せん妄の症状
せん妄の症状は個人差があり様々であるが、意識混濁、妄覚、錯覚、幻覚、精神運動興奮、運動不穏、独語等。期間・時間は一般的に突然発症し、数時間~数日という短い期間に起きる。可逆的で原因がなくなれば症状はなくなる。入院患者のうち、発症頻度は一般外科病棟で10~15%、内科病棟で15 ~25%。高齢者やOP後、熱傷などの症例ではなおリスクが高い。
せん妄の診断基準
せん妄の診断基準は、以下を参照。
診断基準(ICD-10)
確定診断のためには、以下のいずれの症状も軽重にかかわらず存在しなければならない。
- 意識と注意の障害(意識は混濁から昏睡まで連続性があり、注意を方向づけ、集中し、維持し、そして転導する能力が減弱している)。
- 認知の全体的な障害(認知のゆがみ、視覚的なものが最も多い錯覚および幻覚、一過性の妄想を伴うことも伴わないこともあるが、抽象的な思考と理解の障害で、典型的にはある程度の思考散乱を認める。即時記憶および短期記憶の障害を伴うが、長期記憶は比較的保たれている。時間に関する失見当識、ならびに重症例では場所と人物に関する失見当識を示す)。
- 精神運動性障害(寡動あるいは多動と一方から他方へと予測不能な変化、反応時間延長、発語の増加あるいは減少、驚愕反応の増大)
- 睡眠-覚醒周期の障害(不眠、あるいは重症例では全睡眠の喪失あるいは睡眠-覚醒周期の逆転、昼間の眠気、症状の夜間増悪、覚醒後も幻覚として続くような睡眠を妨げる夢または悪夢)。
- 感情障害、たとえば抑うつ、不安あるいは恐怖、焦燥、多幸、無感情あるいは困惑。 発症は通常急激で、経過は1日のうちでも動揺し、全経過は6ヵ月以内である。上記の臨床像は特徴的であるから、基礎にある疾患が明確でなくても、かなりの確信をもってせん妄の診断をくだすことができる。診断が疑わしいときには基礎にある脳あるいは身体疾患の既往に加え、脳機能不全を示す証拠(たとえば、必ずとは言えないが通常、背景活動の徐波化を示す異常脳波)が要求されるかもしれない。
診断基準:DSM-5
- 注意の障害(すなわち、注意の方向づけ、集中、維持、転換する能力の低下)および意識の障害(環境に対する見当識の低下)
- その障害は短期間のうちに出現し(通常数時間~数日)、もととなる注意および意識水準からの変化を示し、さらに1日の経過中で重症度が変化する傾向がある。
- さらに認知の障害を伴う(例:記憶欠損、失見当識、言語、視空間認知、知覚)
- 基準AおよびCに示す障害は、他の既存の確定した、または進行中の神経認知障害ではうまく説明されないし、昏睡のような覚醒水準の著しい低下という状況下で起こるものではない。
- 病歴、身体診察、臨床検査所見から、その障害が他の医学的疾患、物質中毒または離脱(すなわち乱用薬物や医療品によるもの)、または毒物への曝露、または複数の病因による直接的な生理学的結果により引き起こされたという証拠がある。
せん妄の看護ポイント~看護問題と看護目標~
せん妄を起こすと危険行動を起こす可能性もあり、自傷他害の恐れも高くなる。それにより治療がスムーズにいかなくなることも考えられます。
せん妄の看護ポイントは、基本的に
- せん妄を起こさない=予防
- 早く気づく=早期発見
- 早く治療する=早期治療
の3本柱が看護の軸になってきます。
したがって、せん妄患者には以下のような看護展開が求められるのではないかと。
看護問題
- せん妄による自傷他害の恐れ
看護目標
- せん妄を起こさない
せん妄の原因と看護問題のあげ方
せん妄の原因と看護問題
せん妄の原因には以下のようなものが考えられます。
看護問題
(原因)に関連したせん妄
原因一覧
- 入院や手術に伴う急激な環境の変化
- 気管内チューブ等によるコミュニケーションの障害
- 点滴ルート、尿カテーテル、ドレーン留置などによる体動制限と拘束感
- 麻酔・長時間鎮静剤の影響
- アルコール中毒の禁断症状
- 睡眠障害による思考力低下・夜間せん妄
- 認知症の影響
- 離婚、失業等役割喪失による社会的孤立
- 脳虚血や蘇生の影響、脱水等の疾患による意識障害
- ステロイド長期使用による影響
- 肝性昏睡
せん妄の長期看護目標
せん妄を起こさない。
せん妄の短期看護目標
- 現実の非現実の区別ができる。
- 夜間持続した睡眠をとることができ、昼間の活動が増大する。
- 自分の感情、考えを表現することができる。
せん妄の看護計画:観察項目(OP)
- 言語・表情・コミュニケーション・行動
- 発熱・脱水・血液データの異常の有無
- 疾患や手術に対する受け入れ状況と理解力
- 入院前、手術前の理解力や認知症状の有無と程度、進行状況
- 本来の性格
- アルコールの飲酒量、向精神薬やステロイドの使用状況と副作用
- 疼痛の有無と程度
- 昼夜の睡眠状況
- 幻覚や妄想の有無
- 抑うつの状態
- 家族の面会状況、面会時の反応
- キーパーソンの有無
- 入院前の生活環境、家族関係
- 排便状況
せん妄の看護計画:ケア項目(TP)
- 患者が一番反応する刺激方法をアセスメントする
- 夜間せん妄時、日中は覚醒するよう関わり、睡眠リズムを整えるよう助ける
- 家族との面会環境を作り、精神的安定を図る
- 家族の写真や使い慣れた物を置いて環境整備する
- 日時や時間がわかるものを置く
- 治療や検査前のオリエンテーションは患者の理解に合わせて行う
- 意思疎通が図れるよう、コミュニケーション手段を工夫する
- 患者に応じた疼痛コントロールの介入
- 夜間医師指示に応じた眠剤の調整と環境整備
- ベッド周囲の危険防止に努める(可能なら点滴は夜間ロック、 患者、家族の理解を得たうえで、ナイフ、はさみ等危険物になりえるものは看護師管理とする)
- 点滴ルートやドレーン類の整備と体動制限の緩和に勤める
- 傾聴姿勢で患者の思いを聞く姿勢で関わる
- 患者の自立したADLは保ちつつ、日常生活で必要な介助を都度介入する( 排泄、食事、清潔)
- 気分転換を図る
- 排便コントロール
- 部屋の目印をつけたり、トイレへの矢印をかいたり、環境で迷わないよう工夫する
せん妄の看護計画:教育項目(EP)
- 家族にせん妄状態は多くの場合一過性であり、その間充分な保護が必要であることを説明する
- 情緒安定のために家人の面会や理解が大切であることを説明する
- 処置や治療、手術について、本人と家人にわかりやすく説明する
- 日時や環境、状況について随時説明を行う
- スタンダートな看護計画はほとんどこれで網羅できる。
- 患者によく起こる症状とその看護が根拠とともに書かれていて、わかりやすい。