「全身麻酔の影響と合併症」の看護~関連図で見る麻酔の影響~



シンママナースの マリアンナ です。

全身麻酔における手術には、麻酔や手術の影響により起こりやすい合併症があります。またそれらには予防的看護ケアを中心とした看護計画があります。この記事では、全身麻酔による影響と考えられる合併症や副作用、及びその看護計画について説明しています。また全身麻酔から考えられる影響と関連図を紹介しています。

 



全身麻酔とは

全身麻酔とは、麻酔薬の効果で中枢神経系を抑制し、「無痛」「意識消失」「不動化(筋弛緩)」の不可逆的な全身麻酔効果を不可逆的につくることです。全身麻酔を行い、術中継続的に「無痛」「意識消失」「不動化(筋弛緩)」を作り出すことで、患者は手術による痛み、恐怖を感じることなく、痛みによる反射反応も消失するため、安全に手術を行うことができます。

 

麻酔には種類があり、主に吸入麻酔・静脈麻酔・ニューロレプト麻酔・完全静脈麻酔・直腸麻酔の5種類に分かれます。

筋弛緩薬は以下の目的で全身麻酔導入前に投与します。

 

全身麻酔における筋弛緩薬の目的

  1. 骨格筋の緊張を緩和し、開口しやすくして声門をひらき、挿管しやすくする
  2. 挿管に伴うバッキングの防止
  3. 人為的に無呼吸状態を作り、調節的人工呼吸を行う
  4. 腹部手術時の腹筋の緊張を緩和し、手術操作を安易にする

 

全身麻酔の流れは、全身麻酔下での手術を行うとき迅速に麻酔導入し、意識消失と筋弛緩を作り出して気管挿管を行います。気管挿管がスムーズにできたら、人工呼吸器で呼吸をコントロールし、呼吸状態を安定させます。心肺機能が安定したら、手術を行いますが、手術が始まるときには麻酔科医によって麻酔濃度を調整し麻酔効果を維持できるようにします。

 



全身麻酔の方法

全身麻酔は以下のような準備と手順で行われます。

 

  1. 血圧・心電図・SPO2等モニター装着
  2. 静脈確保:点滴ラインの固定
  3. 静脈麻酔薬の挿入
  4. 筋弛緩薬の挿入
  5. アンビューバッグでの補助呼吸
  6. 気管挿管:器官内チューブの固定、人工呼吸の開始と吸入麻酔薬の投与
  7. 手術準備(体位固定、電気メス対極板などの装着)
  8. 麻酔維持
全身麻酔の様子

image:resource

事項から全身麻酔の影響と、起こりうる合併症についてその関連性を説明していきます。

 



全身麻酔の影響と合併症の関連図

全身麻酔をかけて手術を行うと、様々な副作用が生じます。全身麻酔を行うとき、以下のような合併症が考えられます。

 

  • 深部静脈血栓症(DIV)
  • 無気肺
  • 肺炎
  • せん妄、不穏などの精神障害
  • 神経麻痺
  • 褥瘡

 

全身麻酔の影響と合併症の関連図は以下を参照にしてください。

全身麻酔の影響と合併症の関連図

 

 

以下から各合併症の深部静脈血栓症(DIV)、無気肺、肺炎、せん妄、不穏などの精神障害、神経麻痺、褥瘡の原因と機序、看護ポイントについて説明していきます。

 



全身麻酔の合併症:深部静脈血栓症(DIV)

深部静脈血栓症(DIV)については、以下の記事を参照してください。

深部静脈血栓症(エコノミー症候群)の症状と看護~肺塞栓症の予防~ 最近大地震の勃発で避難所でよくエコノミークラス症候群(静脈血栓症)が起こるようになり、いわゆる「血栓症」が良く知られるようになってきました。まだ4年目の看護師の私でさえ、地震は関係なく血栓症で亡くなっ

深部静脈血栓症(DIV)の原因と機序

ウィルヒョウの3徴:静脈血栓の形成

静脈血栓形成の原因として良く知られているのに、ウィルヒョウの3徴というのがあります。ウィルヒョウの3徴とは、静脈血栓形成の徴候である3つの誘発因子「静脈血のうっ血」「血管内皮の損傷」「凝固能の亢進」のことを言います。全身麻酔による手術はウィルヒョウの3徴を起こしやすく、深部静脈血栓症(DIV)のリスクが高くなります。

 

手術と全身麻酔による深部静脈血栓症(DIV)のリスク

全身麻酔による手術は、術中の全身麻酔により動けない状態が長時間続くため、静脈血のうっ血が生じます。静脈血がうっ血すると、活性化された凝固因子の洗い流しや希釈が妨げられて血栓形成が促進される、つまり凝固系が亢進します。手術操作による静脈の圧迫や術後の安静臥床が原因で血管内皮の損傷する可能性も高くあります。

 

また術中の血管操作により血管内皮が損傷すると、血管内皮細胞が血液に暴露されます。これが原因で内因性を中心とした凝固系が活性化され血栓形成促進し、凝固能の亢進します。全身麻酔に及ぶ手術は、様々な要因が重なり凝固能が亢進することで血栓形成が促進されます。つまり周手術期はウィルヒョウの3徴の構成要素がそろった状態であり、深部静脈血栓症(DIV)きたしやすいと言えます。またうっ血性心不全は静脈血のうっ滞を引き起こし、ネフローゼ症候群は凝固能亢進を引き起こすため、これらの既往歴ははさらに深部静脈血栓症(DIV)リスクが高い傾向にあります。

 

 

深部静脈血栓症(DIV)の看護

深部静脈血栓症(DIV)はウィルヒョウの3徴候をである三大因子を極力軽減することで、予防することができます。看護師は特に看護からのアプローチで、静脈血うっ滞の軽減に努めることが出来ます。静脈血のうっ滞を予防するには、早期離床、積極的な運動、弾性ストッキング、観血的空気圧迫法等の看護ケアがあります。以下に深部静脈血栓症(DIV)の予防と看護について紹介します。

 

早期離床

患者の状態が悪くなければ、術後1日目から離床して歩行を行います。歩くことで、下腿の筋ポンプ作用が働き、血栓ができやすい下肢の静脈血うっ滞を予防できます。また術後は、患者はドレーンや点滴、麻酔の効果や絶食なども重なり、離床意欲が低い状態であることが一般的です。離床の意欲低下を軽減するためにも術前から早期離床について説明し、患者が受容しやすいよう努めることも大切です。初めての離床時は、どこかで詰まっていた血栓が飛んで詰まってしまう静脈血栓塞栓症(VTE)を起こす可能性が高く、またハイリスク患者であればあるほどこのリスクは高くなります。術後初めての離床時は全身状態を観察し、緊急時すぐ対応ができるように準備した状態で、初離床を行うようにしましょう。また、SPO2モニター等のモニター類を装着して初離床をすれば、呼吸状態・循環動態の変動を察知することができます。

 

積極的な運動

術前や術直後、また術後の経過等によってすぐに離床できない環境にある場合、臥床のままでも積極的に運動を行うことは、DVT予防に効果的です。臥床でもできる下肢の運動「底背屈運動」を行うことで、筋ポンプ作用で下腿にうっ滞しやすい静脈血の血流を促進することができ、深部静脈血栓症(DIV)を予防することができます。底足背運動についても、患者が自主的に行い、抵抗感を感じることがなく出来るように、事前のオリエンテーションを行います。

 

弾性ストッキング

弾性ストッキングとは

弾性ストッキングとは、血流うっ滞の予防目的で使用する、医療用ストッキングです。深部静脈血栓症(DIV)予防の圧迫圧は、足関節部の圧が16~20mmHg位になるのが良いとわれています。弾性ストッキングは、足関節周囲の圧力が高く、中枢部へ向かうほど圧力が低下していく段階的な圧迫法の構造であることが多いです。弾性ストッキングを効果的に、かつトラブルがないよう使用するためには、メーカーが指定する足のサイズに合わせたものを着用するようにしましょう。また着用後も血流障害や食い込みや圧迫によって剥離や褥瘡などを起こすこともあるので、頻回な観察は必要です。

弾性ストッキングの装着期間

弾性ストッキングの装着期間は、「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」より、基本的に術前術後はもちろん、静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが続く限り終日着用することが推奨されています。

弾性ストッキングが使用できないときの使用品:弾性包帯

足のサイズがなかったり、食い込みなどによって剥離などが考えられる症例では弾性ストッキングを使用できません。その場合、代用として弾性包帯を使用するのも有効です。弾性包帯の巻き上げ方は、末梢を強めに巻き上げ、中枢方向向かって徐々に圧力を弱めていくよう巻き上げます。包帯のゆるみ、ずれがあるときはすぐ交換します。使用中は弾性ストッキング同様、血流障害や皮膚トラブルに注意が必要です。

 

観血的空気圧迫法

観血的空気圧迫法とは、下肢にカフを巻き、機械で観血的に空気を送って下肢を圧迫し、下肢の静脈血うっ滞を予防する方法です。フットポンプとも呼ばれています。下腿全体を包むものや、足関節から下方だけのものなどサイズは色々ありますが、使用意図は全部同じです。出血リスクが高い、すぐ離床できない等の理由がある患者には有効で、フットポンプの予防効果は薬物的予防法と同程度との報告もされているほどです。

フットポンプ

観血的空気圧迫法(フットポンプ)の装着期間は、「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」より、術前・術中から着用し少なくとも充分な歩行ができるまで終日着用することが望ましいといわれています。フットポンプの注意点として、腓骨小頭の圧迫により腓骨神経麻痺を起こすことがあるので、腓骨神経麻痺症状に注意が必要です。

 

薬物的予防法

ヘパリンやワルファリンなどの抗凝固薬の内服を行い、血栓を予防します。この方法は手術創からの出血リスクなども高くなるため、内服予防する際は手術創の出血や点滴刺入部の出血にも注意が必要になります。また、転倒などで安易に出血してしまうため、危険行動にも注意が必要です。

 



全身麻酔の合併症:無気肺

無気肺とは、肺の一部が虚脱して肺や肺胞に空気を含まない状態になったことを言います。

無気肺の症状

細気管支の一部分の閉塞であればほとんど症状を認めませんが、閉塞の範囲が広くなると喘鳴が聴取され、閉塞している部位の呼吸音が聴取できなくなります。時間経過とともにチアノーゼが現れ、呼吸数が増加します。残された肺胞で呼吸をしようとするので、循環動態にも影響をきたし、頻脈などが現れるようになります。

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