シンママナースの マリアンナ です。
この記事では、中心静脈カテーテルの合併症について説明しています。中心静脈カテーテルの合併症は主にカテーテル挿入の際に引き起こされる合併症と、留置後に引き起こされる合併症の2つに分かれます。留置前と留置後の合併症やその原因についてまとめられています。
中心静脈カテーテルの合併症とその原因
中心静脈カテーテルの合併症には、カテーテル挿入の際に引き起こされる合併症と、留置後に引き起こされる合併症の2つに分かれます。
カテーテル挿入の際に引き起こされる合併症
中心静脈カテーテル挿入での無菌的管理の第一歩は、無菌的なカテーテルの挿入です。
高度バリアプレコーション(滅菌手袋・長い袖のガウン・マスク・帽子・ドレープ)のもとで行うことが推奨されています。感染予防のためにも是非励行されるべきです。CVカテーテル挿入予定部位の剃毛は感染のリスクを増やすため、行うべきではありません。皮膚は4%クロルヘキシジンアルコールまたは10%ポビドンヨードあるいは70%アルコールを用いて消毒が必要です。消毒から30秒~2分ほど待ち、消毒薬の殺菌力が最大となった時点でカテーテルを挿入するように心掛けます。
また、CVカテーテルが留置される部位は、留置後のカテーテル関連血流感染症のリスクを左右する為に慎重に検討される必要があります。大腿部からのアクセスは、気胸や血胸のリスクが無いことに加えて、穿刺が比較的余裕なことから安易に施行される傾向がありますが、大腿部は排泄部による汚染頻度が高く、菌の定着率が比較的に高い事に加えて、深部静脈血栓症のリスクが高いことも知られています。したがって、中心静脈ラインの大腿部穿刺は可能な限り避けるべきです。特に感染性合併症予防の観点からは、鎖骨下穿刺が望ましいといえます。ただし、鎖骨下静脈穿刺の機械的合併症として、血胸・気胸・鎖骨下動脈穿刺・血栓症・空気塞栓があり、これらの合併症は致命的になるため注意が必要です。
一方、静脈切開法においては心臓に近い静脈を切開し、そこにCVカテーテルを留置して輸液を投与します。静脈を切開する際に“動脈損傷”の可能性があります。特に、小児(特に生まれて間もない小児)では動脈と静脈の区別が難しい場合があり、誤って動脈を傷つけてしまうことがあります。また、部分的な神経損傷の可能性もあり、神経を損傷した場合には一時的な痺れ、知覚異常を認めることがあります。
局所麻酔による影響
術前に麻酔薬に対するアレルギー過敏症の有無(薬歴確認)を確認します。薬歴がない患者さんに対しては、過敏症の有無を正確に判断することができず、麻酔薬によるアレルギー反応(ショック)は避けることができないのが現実です。アレルギー反応を起こすと、血圧低下・意識消失・呼吸困難などの症状を認め、最悪死亡に繋がる場合があります。
気胸
誤って肺に穿刺針が当たることがあります。これにより肺と胸壁の間の空間(胸腔)に空気が溜まり、肺を圧迫することによる呼吸困難を生じます。穿刺前後に胸部X線撮影で確認しますが、気胸を起こしている場合は、胸腔ドレーンの留置などの対策をとる必要があります。また、気胸の発生は穿刺後12時間程度では明瞭とならない場合もあるので、静脈穿刺後1時間以内の早期での胸部X線撮影は気胸の確認において十分でない可能性もあります。
動脈穿刺に伴う血胸
中心静脈の近くには太い動脈が走行しています。中心静脈をめがけて術者は穿刺しますが、誤って動脈を穿刺してしまうことがあります。その際は十分に圧迫止血し処置しますが、まれに大きな血腫を形成し気道を圧迫することによる呼吸困難を生じる場合があります。血胸に移行した場合には、胸腔ドレナージを必要とする場合があります。
皮下血腫
動脈穿刺を数回繰り返した時に形成されやすくなります。穿刺した部位が青または紫色に変色し痛みを伴う場合があります。多くの場合はこの血腫には発熱も伴います。また、ここから外部の傷などによって重症化すると皮膚下の血腫が化膿してしまい、感染症を引き起こす場合があります。
カテーテル先端位置の異常
比較的高頻度に起こる合併症としてCVカテーテル先端位置異常があり、挿入後に必ず胸部あるいは腹部X線写真を撮影してカテーテル先端が適切な位置にあるかを確認する必要があります。中心静脈ラインが自然と抜けてくることもあるので、カテーテル先端位置は定期的に胸部X線撮影でチェックする必要があります。
次にCVカテーテル留置の際に引き起こされる合併症について述べます。
カテーテル留置後に引き起こされる合併症
感染症
CVカテーテルの管理では、輸液剤・カテーテル挿入部位・輸液ラインの無菌的管理を実施し、清潔かつ細心の注意をはらいますが、体の外部と内部がCVカテーテルで繋がる為、菌の侵入が一旦起こると一気に全身へ細菌が広がり、カテーテルに起因した敗血症を引き起こすことがあります。CVカテーテル感染の発生要因には内因性要因と外因性要因の2つがあります。外因性要因には、輸液の汚染、CVカテーテル皮膚挿入部や輸液ラインの接続部からの菌の侵入です。一方、内因性要因には、低栄養状態による易感染状態、広域抗生物質の長期投与による菌交代現象、他の感染巣の存在、免疫抑制をきたす薬剤の使用、絶食に伴う腸管を使用しないことによるバクテリアルトランスロケーションが挙がります。カテーテル敗血症は、カテーテルに起因する合併用のうち最も重篤です。起こった場合はCVカテーテルを抜去します。
※カテーテル関連血流感染症(CRBSI)とは、中心静脈カテーテルを使用中に、発熱、白血球増多、耐糖能低下、核の左方移動など、感染を疑しめる症状があり、カテーテル抜去によって解熱その他の臨床所見の改善を認めたもの、と定義されます。典型的な症状としては、突然悪寒を伴う発熱が出現します。そしてカテーテルの抜去によって解熱する事です。
空気塞栓
挿入中に空気塞栓が起こることは稀ですが、穿刺針の内針を抜いて外套内にカテーテルを挿入する間、患者には息こらえをしてもらい、術者が素早く挿入することで防ぐことができます。特に鎖骨下穿刺時では陰圧の胸腔内圧の影響を受けやすい為に、空気塞栓のリスクは上がります。
カテーテルの位置異常
挿入の際には胸部または腹部X線撮影で先端位置を確認します。その後他の血管へ迷入したり、浅く・深くなる、血管外へ逸脱する、カテーテルが自然と抜けてくることもあまります。CVカテーテル先端位置は定期的に胸部X線撮影でチェックする必要性があります。
血栓形成
CVカテーテルの内腔や周囲に血栓を形成する場合があります。あらかじめ血栓予防の為に、抗血栓性に優れているカテーテル(ポリウレタン・シリコン)が使用されています。血栓形成時には直ちにカテーテルそのものを抜去する、もしくは血栓形成予防の為に、ウロキナーゼなどの血栓溶解剤を投与する場合があります。
血管炎
CVカテーテルの先端が血管壁に接することにより血管炎をおこし、輸液が胸腔内あるいは縦隔内に溜まってしまうことがあります。呼吸困難を呈するため、漏れた輸液を抜くための胸腔ドレーンを入れる必要があります。
カテーテルの断裂
何らかの原因により、留置されているCVカテーテルがごく稀に断裂を起こし、肺や心臓の血管内に入ってしまうことがあります。この場合には、心臓カテーテルを行い、断裂したカテーテルを摘出する必要があります。
さらにCVカテーテルにみられる合併症には、代謝上の合併症(糖質・アミノ酸・脂質・ビタミン・微量元素・電解質)に起因するものがあります。
高トリグリセリド血症
輸液にはブドウ糖を主として、アミノ酸、ビタミンなどの栄養素が含有されています。しかし、輸液の投与速度が速すぎると血中の脂肪(トリグリセリド)が増加し高脂血症をきたします。その結果、膵炎や肺機能障害を引き起こすことがあります。糖質の投与速度は5㎎/kg/分以下、脂肪乳剤の投与速度は0.1g/kg/時以下が守られるよう投与速度を調整します。
高窒素血症
中心静脈栄養開始後の脱水や全身状態の悪化に伴い、体内の筋肉に蓄えられている蛋白質が分解されることによって、高窒素血症が起こることがあります。これは蛋白質の分解が亢進することによって、体内にアミノ酸が増加し、肝臓における尿素合成が亢進することで引き起こされます。
ビタミン欠乏症
微量元素やビタミンA・D・B12などは体内貯蔵量が多いため、欠乏症は起こりにくいです。しかし、水溶性ビタミンであるビタミンB1は体内貯蔵量が小さく、欠乏症を来しやすいといえます。特にビタミンB1欠乏に伴う代謝性アシドーシスには注意が必要です。糖質をメインとした高カロリー輸液による栄養管理を行う場合にはビタミンB1の消費量が増加する為、欠乏状態に陥りやすいといえます。
Refeeding Syndrome(リフィーデングシンドローム)
長期間栄養不良状態が続いている患者さんに、中心静脈栄養において急に積極的な栄養補給を行うことによって、低リン血症を来し、発熱・痙攣・意識障害・心不全・呼吸不全などが現れます。栄養補給開始直後、もしくは開始4〜5日後に発症します。栄養不良の患者さんにはゆっくりと投与量を増加するようにしましょう。血中リン濃度を測定することと、直ちに静脈的なリン酸の補給が必要となります。
投与カロリー量が35Kcal/kg/日を越える場合
投与カロリー量が35Kcal/kg/日を越える場合には、肝臓の脂肪変性、高血糖、尿素窒素の上昇、血中トリグリセリド値の上昇、呼吸促迫、CO2産生増加による高炭酸ガス血症などを来す場合もあるので注意が必要です。
血糖管理
中心静脈栄養からは高濃度(約15~20%)のグルコースが投与されます。特に糖尿病患者さんをはじめ、高齢者、感染症患者、術後患者においては耐糖能が低下していることが多いため、血糖管理がきわめて重要です。CVカテーテルでの栄養管理の際に、脱水や感染がある場合には是正し、慣らし期間を設けて徐々に投与量が増えるようしましょう。また血糖値に応じてインスリン投与を行う場合があります。また、中心静脈カテーテルからの栄養管理を急に中止すると、相対的な高インスリン血症になるため、反応性の低血糖状態となります。投与中止時には中心静脈カテーテルからの補液の投与速度を徐々に遅くすると共に、末梢カテーテルから10%程度の糖輸液などを投与しましょう。