動脈血ガス分析の目的と基準値:アシドーシスとアルカローシスの症状とアセスメント



シンママナースの マリアンナ です。

動脈血ガス分析は、動脈中に含まれる酸素や二酸化炭素、酸塩基平衡を調べる検査です。

血液ガスデータは患者さんの全身状態、人工呼吸器設定・継続するかの必要性、心不全や呼吸不全などの気管支系疾患の可能性を判断するための指標となります。分析値を正しく読み、適切な解釈をすることが必要となります。動脈血を採取し、自動血液ガス分析装置により、PaO2(動脈血酸素分圧)、PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)、pH(水素イオン濃度指数)、を測定します。更にSaO2(動脈血酸素飽和度)、HCO3-(重炭酸イオン濃度)、BE(塩基過状剰)は分析器もしくは自ら計算する事によって、得られます。



PaO2

PaO2の基準値

PaO2の基準値は80~100mmHgです。

PaO2とは

血液中の酸素分圧(酸素をヘモグロビン(Hb)と結合させる圧力)を指します。即ち、肺における酸素化の指標です。酸素と二酸化炭素のガス交換は、肺胞内の空気と肺毛細血管の血液の間で行われます。静脈から肺に戻ってきた血液に含まれる酸素分圧は40mmHg前後です。肺胞には100mmHgの酸素が含まれていますが、気管支静脈が肺静脈に合流する等の動脈と静脈をつなぐ路(生理的シャント)があり、動脈血の酸素は肺胞気酸素分圧よりもやや低下し、96mmHg程度となります。ちなみに、PaO2は加齢と共に低下します(例えば60歳では88mmHg、80歳では83mmHg)。60mmHg以下では呼吸不全と判断されます。



PaCO2

PaCO2の基準値

PaCO2の基準値は35~45mmHgです。

PaCO2とは

動脈血中に溶解した炭酸ガス濃度を反映しており、組織での二酸化炭素の産生と肺での二酸化炭素排出のバランス(ガス交換効率)をみる指標です。肺胞換気量に反比例し、換気不足(肺胞低換気)であれば上昇し、過換気(肺胞過換気)であれば低下します。肺胞低換気となる原因は、気管内の異物や気管支炎、気管支喘息、肺炎、肺気腫などの肺疾患と、重症筋無力症や筋ジストロフィーなどの筋疾患が挙がります。肺胞過換気となる原因は、痰による閉塞性無気肺による頻呼吸、過度のストレスや発熱などによる過換気症候群が挙がります。



動脈血

動脈血のpHの基準値

動脈血のpHは7.40±0.05であり、弱アルカリ性です。

動脈血のpHとは

pHが7.35よりも低くなる場合をアシドーシス、pHが7.45よりも高くなる場合をアルカローシスと呼びます。多くの代謝過程が正常に機能するためには、pHは比較的狭い範囲内になければなりません。呼吸性または代謝性調節因子のいずれかの異常が存在しても、生体の代償機能が保持されていれば、一定に維持されます。(動脈血中の水素イオン濃度は40nEq/l程度で、極めて低い濃度です。その為、一般的にはpHとして示されます)。



SaO2

SaO2の基準値

SaO2の基準値は95~100%です。

SaO2とは

SaO2は動脈血内の酸素飽和度になります。簡便に測定できるSPO2では血流や脈が弱い場合、チアノーゼがあるなどして爪の色が悪い場合のことがあると測定できなかった経験がある人もいると思いますが、動脈血を分析して測定するSaO2ではより正確に酸素飽和度を測定することができます。SaO2とPaO2は、一定の関係があり、SaO2の値からPaO2のおおよその値を推測することができます。低酸素血症の基準は、PaO2が60mmHg以下とされています。PaO2が60mmHgのときのSaO2は90%です。この原理を酸素解離曲線といいます。

酸素解離曲線

image:resource

 



HCO3-

HCO3-濃度の基準値

HCO3-濃度の基準値は24±2mEq/lです。

HCO3-とは

HCO3-が変化してpHが動くのが代謝性変化です。HCO3-は、体内のH+を受け取り、中和してpHを一定に保つ働きをします。体内の酸の量に影響を受けますが、調節は腎機能によって行われ、腎臓の代謝機能を知ることができるデータとなります。



BE(Base Excess)

BE(Base Excess)の基準値は

BE(Base Excess)の基準値は-2~+2 mEq/lです。

BE(Base Excess)とは

血液1Lを37℃、PCO2:40mmHgの状態でpHを7.40に戻すのに必要な酸またはアルカリの量(mEq/l)を表しています。つまり呼吸性の因子を排除することで代謝性因子の変動をみることができます。酸を用いる必要があればBEの値はプラス、塩基を用いる必要があればBEの値がマイナスで示されます。即ち、-BEの値で示される場合はアシドーシスです。



アシドーシスとアルカローシスのアセスメント

アシドーシスとアルカローシスのアセスメントを述べます。

アシドーシス及びアルカローシスは、それぞれの主要因により代謝性と呼吸性に分けられ、これらの病態では血液ガス中でのパラメータが特徴的に変化します。アシドーシスは、HCO3-濃度を下げる代謝性因子やPaCO2を上げる呼吸性因子が体内に存在し、pHを下げるような病態を指します。一方、アルカローシスはHCO3-濃度を上げる代謝性因子やPaCO2を下げる呼吸性因子が体内に存在し、pHを上げるような病態を指します。血液のpHの変化をきたすような状態があると、生体内ではその異常を正常化するような代償機能が作動します。

 

何らかの原因により代謝性アシドーシスが出現するとHCO3-濃度は低下します。このため、[HCO3-]/PaCO2を正常範囲内に維持するように、頻呼吸として呼気中にCO2を排泄させ、PaCO2をできる限り低下させます。循環障害や腎不全、糖尿病性ケトアシドーシス、胃消化管からの重炭酸イオン損失 (下痢)が原因として挙がります。

一方、代謝性アルカローシスではHCO3-濃度が増加しているので、呼吸抑制によりPaCO2を増加させます。このような肺の作用を呼吸性の代償作用といいます。利尿薬、嘔吐などによる消化管からの酸消失、低カリウム血症が原因として挙がります。

換気障害があるとCO2排泄は不良(蓄積)となり、血中のPCO2値は増加し、呼吸性アシドーシスの状態になります。このため腎臓はできる限りの酸排泄の増加、およびHCO3-の再吸収を促進し、[HCO3-]/PCO2を正常範囲内に維持するような機序が働きます。二酸化炭素が体内に蓄積した結果、即ち呼吸が行われる過程(呼吸中枢(延髄)→神経→筋肉→胸郭→肺)の何れかに障害が起きたからこそ、呼吸性アシドーシスになったといえます。

一方、過換気ではCO2の排泄は増加し、血中PCO2値は低下し、呼吸性アルカローシスとなります。この場合は、腎臓では酸排泄を減少させて[HCO3-]/PCO2を正常範囲に維持するような機序が生じます。このような呼吸性の酸塩基平衡障害時に腎により行われる作用を代償作用といいます。過換気が原因として挙がります。

 

動脈血ガス分析データの正常値をさらに正確に把握する為には、次の5つのステップが必要です。



ステップ1:pHに注目する

ステップ1では、pHに注目します。基準値7.40において、それより高いのか低いのかの状況判断を行います。7.45より高ければアルカレーミア、7.35より低ければアシデーミアと判断します。

※アシドーシスやアルカローシスとは、血液pHをアシデーミアやアルカレーミアにするような病態や生体反応の状態をいいます。このためアシドーシスやアルカローシスを呈していても血中pH恒常性のため、必ずしも血液pHが異常値(アシデーミア、アルカレーミア)を呈していない事があります。



ステップ2:血液の酸性・アルカリ性の判断

●ステップ2では、血液の酸性・アルカリ性がアルカリ物質のHCO3-の変化で起こったのか、酸性物質のCO2の変化で起こったのかを判断します。



ステップ3:代謝性アシドーシスの原因を推定

ステップ3では、アニオンギャップを計算し、代謝性アシドーシスの原因を推定します。つまりアニオンギャップが増大している場合には、酸性物質が溜まっているということになります。

※AG=Na+-(Cl-+HCO3-)=12 (基準値:12±2 mEq/l)、⊿AG=AG-12



ステップ4:混合性酸塩基平衡障害かを判断

ステップ4では、代償性変化の程度を評価して、呼吸性と代償性障害の合併による混合性酸塩基平衡障害かを判断します。酸塩基平衡障害における一時変化とその代償性作用の比率は、単純性酸塩基平衡では一定の範囲に入ります。これを大幅に逸脱していれば混合性の酸塩基平衡障害と判定できます。



ステップ5:患者と照らし合わせてアセスメントする

ステップ5では、患者さんと照らし合わせて、アセスメントを行います。患者さんに下痢や嘔吐があるかなどを確認したり、また、身体所見からも酸塩基平衡障害の起こる可能性を絶えず考えながらアセスメントする必要があります。例えば、糖尿病があり、血液ガスで代謝性アシドーシスと指摘された場合には、糖尿病性ケトアシドーシスを考えて、医師へケトン体を測定依頼してみます。次に糖尿病性腎症による尿毒症も考慮する必要があります。さらに、糖尿病患者さんでは血流障害や細胞機能異常のために、乳酸性アシドーシスの可能性も考えられます。このように患者さんの病態を考えながら血液ガス分析とアセスメントを進めていきます。

 

続いて、アシドーシス時に生体に認められる症状について紹介します。



アシドーシス時に起こる症状と観察項目

呼吸症状

呼吸器系への反応は肺の代償機能として、クスマウル大呼吸としてよく知られる過換気を生じます。また、肺血管抵抗の増大となる肺高血圧から呼吸困難の症状を認めます。

観察項目

呼吸状態・呼吸回数・呼吸苦の有無・SPO2の変化・努力呼吸の有無等

循環器症状

心筋の収縮力が低下し、心拍出量が減少するとともに血圧が低下します。アシドーシスは末梢血管に対して拡張性に作用しますが、同時に起こる交感神経系の活性亢進とバソプレッシンの分泌亢進が収縮性に作用する為、これらの総和として血管収縮・拡張がきまります。一方、心血管系のカテコールアミンに対する反応性が低下する為、カテコールアミンの効果が減弱し、血圧上昇の作用は得られません。しかし、アシドーシスでは交感神経刺激によるカテコールアミン分泌の亢進によって、初期には血圧の上昇と共に心拍数の増加を認めます。この作用は特に呼吸性アシドーシスでしばし認めます。

心血管系に対しては、心拍出量の増加や心筋興奮性、心収縮力の刺激があり、筋肉神経系は興奮状態にあることを認めます。不整脈も出現しやすく、低カリウム血症による心電図変化も認めます。

観察項目

脈リズム・心電図モニターの変化・血圧の変化等

排泄

腎臓においては交感神経活性の増大、レニン・アンジオテンシン系機能亢進による腎血管が収縮し糸球体濾過値や腎血流の低下がみられ、乏尿傾向となります。また、呼吸性・代謝性ともに腎臓におけるHCO3-の再吸収の増加、アンモニア産生、滴定酸(尿などを水酸化ナトリウムを用いてpH:7.4まで滴定するのに要したアルカリ量を滴定酸度といい、その成分をなす酸を滴定酸と総称します)の排泄が亢進します。

腎臓に対しては末梢血管の変化に伴う割には影響が乏しいです。過剰な塩基を排泄するようにアルカリ尿の反応が認められます。しかし、高度のカリウムイオン欠乏に陥ると、尿細管細胞からカリウムイオン分泌に変わって、水素イオンが分泌されるようになり、矛盾性の酸性尿が出現します。

観察項目

尿量・尿の性状・尿の色・IN/OUTバランス等

神経症状、頭部症状等

筋症状としては、イオン化Caの増大による脱力感や麻痺を認めます。

内分泌・代謝に関してはカテコールアミンの分泌は低下し、解糖の亢進、血中乳酸値の増加を認めます。低カリウム血症を併発すると同時に、血清イオン化カルシウムは減少します。このため神経・筋肉の興奮性の増強、易刺激性からテタニーが出現し、腱反射も亢進します。

中枢神経系に対するアルカローシスの症候で最も問題となるのは、脳血管攣縮による脳血流の減少です。この結果、めまい・失神・てんかん発作の誘発・意識障害を認めます。特にPCO2の低下(呼吸性アルカローシス)では脳血管を強く収縮させます。生体にとってはアシドーシス状態での生命維持はある程度ならば可能ですが、アルカローシスに対しては非常に脆いといわれています。

中枢神経系では脳血管の拡張、脳血流の増加、脳圧亢進が生じて、これに伴い頭痛、意識障害、混迷などの症状を認めます。特に呼吸性アシドーシスで著しいです。

観察項目

ADLの変化・両四肢のMMT変化・筋拘縮の有無・腱反射の有無・めまいや意識障害の有無・頭痛など症状等

消化器症状

消化器症状では、中枢神経系の症状として悪心・嘔吐を認めます。

観察項目

悪心・嘔吐の有無等

その他の症状

内分泌・代謝系への影響としては、カテコールアミンや副腎皮質ホルモンの分泌亢進、インスリン抵抗性の増大を認めます。

アシドーシスの存在は骨の構成成分であるHCO3-を遊離させて、アシドーシスを抑制するように働きますが、その代償として骨脱灰や骨粗鬆症を引き起こしやすくなります。

カリウムイオンの細胞内から細胞外への移動による、高カリウム血症の併発や、イオン化カルシウムの増大もよく知られています。

一方、酸塩基平衡異常のうち体内の水素イオンを減少させるような病態(アルカローシス)では、一般的な症状としてアシドーシスの逆の現象として出現します。

観察項目

血糖の変動・低高血糖症状の有無・高カリウム血症による心電図の変化等