深部静脈血栓症(エコノミー症候群)の症状と看護~肺塞栓症の予防~



シンママナースの マリアンナ です。

最近大地震の勃発で避難所でよくエコノミークラス症候群(静脈血栓症)が起こるようになり、いわゆる「血栓症」が良く知られるようになってきました。まだ4年目の看護師の私でさえ、地震は関係なく血栓症で亡くなったひとや呼吸停止・心停止したひとを結構見ました。元気で普通に歩いていた人でも起こします。それくらいよくある病気なので、血栓症とは看護師だけじゃなく一般のひとも知っておくべき病気なんです。この記事は深部静脈血栓症(エコノミ-クラス症候群)と、そのリスクである肺塞栓症、その看護についてまとめています。

 



深部静脈血栓症(エコノミ-クラス症候群)とは

深部静脈血栓症とは

深部静脈血栓症とは、DVTdeep vein thrombosis)とも呼ばれ、静脈に血栓(血の塊)が詰まった状態のことを言います。特に骨盤・下肢静脈の急性期深部静脈血栓症の発生頻度の高いことで知られています。血栓ができる原因は、長時間の同一姿勢や食習慣により血液がドロドロになること等があげられます。

 

エコノミークラス症候群とは

エコノミークラス症候群とは、深部静脈血栓症と同意義で、長時間同一姿勢で過ごした結果、血流が停滞して流れなくなり、血栓を形成した状態をいいます。

飛行機のエコノミークラスで長時間フライトしたときよく起こることから、「エコノミークラス症候群」と呼ばれるようになりました。長時間の座位姿勢により下半身の血流が悪くなり、下肢に血栓ができます。最近では九州の熊本大地震によって、避難するため狭い車内生活を強いられたことが原因で、多くの方がこのエコノミークラス症候群を起こし救急で搬送され、中には命をなくされた方もいました。

エコノミー症候群

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深部静脈血栓症(エコノミ-クラス症候群)の死亡率

深部静脈血栓症の発生頻度はこの10年間に約30倍急増しており、死亡率が0.8%と言われています。

ただし深部静脈血栓症が原因で起こる急性肺血栓塞栓症を起こした場合の死亡率は、14%~30%といわれています。迅速な医療処置を行わなければ死亡する確率は高く、また適切な医療処置を行った場合、死亡率は2~8%まで低下します。

 

急性肺血栓塞栓症の死亡率について静脈血栓塞栓症ガイドラインには以下のように記載されています。

「急性肺血栓塞栓症 309例の死亡率は14%,心原性ショックを呈した症例では30%(うち血栓溶解療法を施行された症例では20%,施行されなかった症例では50%),心原性ショックを呈さなかった症例では6%であった)。また,欧米のデータによれば,診断されず未治療の症例では,死亡率は約 30%と高いが,十分に治療を行えば2~8%まで低下するとされ,早期診断,適切な治療が大きく死亡率を改善することが知られている」

 

でもなにより、深部静脈血栓症(エコノミ-クラス症候群)と、肺血栓塞栓症を起こさないよう予防することが大切です。

これらの症状と予防対策を知り、早期発見と発生予防に努めましょう。

 

深部静脈血栓症(エコノミ-クラス症候群)になるやすいリスク項目

現病歴で頻度の高い危険因子

  • 静脈内カテーテル留置
  • 術後や集中治療による2日以上の絶対安静
  • 四肢の麻痺や固定
  • 大腿骨骨折の周術期(高リスク!

 

既往歴で頻度の高い危険因子

  • 深部静脈血栓症
  • 肺血栓塞栓症
  • 脳血管障害
  • 脊髄損傷の有無
  • 四肢や腹部の手術

 

家族歴で頻度の高い危険因子

  • 血栓性素因を示唆する若年性
  • 多発性や再発性の静脈血栓症

 

生活歴で頻度の高い危険因子

  • 止血薬
  • 女性ホルモン薬
  • ステロイド

 

ウィルヒョウの3徴候にあてはまる患者

ウィルヒョウの3徴候(血栓症は以下の1個以上の異常により起こる)

  • 血栓傾向
  • 血流停滞
  • 血管内皮障害

 

などの血栓傾向を誘発する薬剤の継続的服用している場合。

 

 



深部静脈血栓症(エコノミ-クラス症候群):特徴的な症状とは

肺血栓塞栓症の原因にもなる深部静脈血栓症(エコノミ-クラス症候群)。これらの前兆となる症状は何なのでしょうか。

 

深部静脈血栓症の症状

  • 急速発症した腫脹、疼痛、あるいは色調変化

突然片側もしくは両側の下腿に腫脹、疼痛、あるいは色調変化を起こす。下腿筋の圧痛を伴うことがある。色調変化は、大腿部や下腿部の赤紫色では中枢型を疑うが、感染(リンパ管炎や蜂窩織炎)も考慮する。

 

静脈血栓症 画像

 

静脈血栓症 画像

 

静脈血栓症 画像

 

  • 浮腫

血栓塞栓による循環不全に伴い、片側だけに浮腫がでることがある。

  • 呼吸困難や胸痛

血栓の梗塞により呼吸症状が起こる。起き上がって立位になったり、座位になったときに起こることが多い。

  • Homansテスト(ホ―マンズ兆候)

膝を軽く押さえて足関節を背屈させると,腓腹部に疼痛が生じる。

  • Loewenbergテスト(Lowenberg徴候)

下腿に血圧測定用のカフを巻き加圧すると,100~150mmHgの圧迫で疼痛が生じる。

  • 表在静脈の怒張

表在静脈の怒張は閉塞部位の参考となる。

  • 足背動脈・膝窩動脈の触知困難もしくは触知不可

血栓の梗塞により血流が低下することによっておこる。

 

 



静脈血栓塞栓症ガイドラインから学ぶ:肺血栓塞栓症の症状

肺血栓塞栓症で最も怖いのは急性肺血栓塞栓症です。

死亡率は11.9%で心筋梗塞の7.3%を上回り、発症すると致死率が高い非常に怖い病気です。静脈血栓塞栓症によりできた血栓が、血流にのって肺動脈に詰まった状態のことです。肺動脈に血栓が詰まると心臓から脳を含む体中に酸素を供給できなくなり、発症してからすぐ救命処置をしないとすぐに致死的な状態になります。

肺血栓塞栓症

画像:naverまとめ

 

症状

肺塞栓症研究会によると、以下のような症状が起こることが報告されています。(n=579)

  • 呼吸困難:399/551(72%)   
  • 胸痛:233/536(43%)
  • 冷汗:130/527(25%)
  • 動悸:113/525(22%)
  • 失神:120/538(22%)
  • 咳嗽:59/529(11%)
  • 発熱:55/531(10%)
  • 血痰:30/529(6%)

呼吸困難、胸痛が主要症状で、呼吸困難、胸痛、頻呼吸のいずれかが97%の症例でみられたとする報告があります。呼吸困難は最も高頻度な症状であり、他に説明ができない呼吸困難、突然の呼吸困難で、危険因子がある場合には急性肺血栓塞栓症を疑う必要があります。心肺疾患を有する患者では呼吸困難が以前より増強して症状が現れます。

 

特徴的発症状況

  • 安静解除直後の最初の歩行時、座位時
  • 排便・排尿時
  • 体位変換時

 

病態生理及び関連図

急性肺血栓塞栓症の病態生理及び関連図は以下の通りです。

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静脈血栓症(DVT)の治療とは~静脈血栓塞栓症ガイドラインによる流れ~

下肢深部静脈血栓症の治療目標

下肢深部静脈血栓症の治療目標は、

  1. 血栓症の進展や再発の予防
  2. 肺血栓塞栓症の予防
  3. 早期、晩期後遺症の軽減

です。

最も理想的な治療法は、肺血栓塞栓症の合併を防ぎ、速やかに静脈血栓を除去ないし溶解させ、再発を防ぐことにより、静脈の開存性を確保して静脈弁機能を温存できる方法になります。

 

深部静脈血栓症の診断のアルゴリズム

深部静脈血栓症の診断のアルゴリズム

深部静脈血栓症の治療

深部静脈が血栓により完全閉塞した場合でも、時間経過とともに血栓が溶解して再疎通することが観察されます。

基本的には、血栓を造らないようにする抗凝固剤のアプローチと、血栓を溶かす血栓溶解療法のアプローチを行います。

 

薬物治療

  1. 抗凝固療法
    1. ヘパリン
    2. ワルファリン
  2. 血栓溶解療法

 

亜急性期・慢性期の治療

DVTの急性期を過ぎてからの亜急性期・慢性期の治療における目的とは、浮腫や疼痛軽減のみならず、血栓症の再発予防・血栓後遺症の発生や重症化を予防することです。

弾性ストッキングの着用

弾性ストッキングの着用を行い、血流うっ滞を予防します。

弾性ストッキングは圧迫圧の設定が重要です。DVTあるいは血栓後遺症において、足関節で30mmHg台の圧迫用の弾性ストッキングが第一選択になります。浮腫の強い症例、皮膚病変の生じている症例では40mmHg台を選択する必要があります。

弾性ストッキングのタイプに関しては、血栓後遺症の症状が、ほとんどの症例で下腿や足部に生じること、また長期的に使用しやすいことから、ハイソックスタイプのストッキングでよいといえますが、大腿部まで高度の浮腫を認める症例においては、下肢全体をカバーするタイプのストッキングが推奨されています。

弾性ストッキングの寿命を考えると、通常半年に1回は新しいものに取り替える必要があるでしょう。

弾性ストッキングの継続使用については、静脈機能の改善の程度を考慮して、症例ごとの決定が必要です。症状の強い症例や静脈機能の推移によっては圧迫圧の高いものに変更し、継続して使用します。

 

圧迫療法における注意点

  • 動脈血行障害のある患者では圧迫により血行障害を増悪させるリスクがあり、特に糖尿病患者などでは動脈疾患が潜んでいる可能性があり注意が必要です。
  • 下肢の蜂窩織炎、血栓性静脈炎などの急性炎症の併発症例においては炎症を増悪させる可能性があります。
  • うっ血性心不全や急性心筋梗塞の症例では、静脈還流の増加により心不全の増悪の可能性があります。
  • 血流が悪い、糖尿病がある患者、低栄養の患者において、医療関連機器圧迫創傷が起こることがあります。

 

 



急性肺血栓塞栓症の治療とは~静脈血栓塞栓症ガイドラインによる流れ~

 

急性肺血栓塞栓症の診断と治療の流れは以下の通りです。

急性肺血栓塞栓症の診断と治療の流れ

 

急性肺血栓塞栓症の診断と治療の流れ

 

 

深部静脈血栓症:観察項目

看護師であれば深部静脈血栓症を疑うとき、以下のような症状の観察に注意してください。

 

  • 急激に起こる下腿の腫脹、疼痛、あるいは色調変化

血栓により血流がうっ滞することで、下腿の腫脹、疼痛、あるいはチアノーゼなど色調変化が起こります。片側だけにこのような症状が起こったときは要注意です。ドクターに症状と状態を報告し、必ようであれば精査の依頼をしましょう。

  • 浮腫

血栓塞栓による循環不全に伴い、片側だけに浮腫がおこります。中枢性であれば両下肢に起こります。

  • 呼吸困難や胸痛

血栓の梗塞により呼吸症状が起こります。起き上がって立位になったり、座位になったときに起こることが多いので、安静後初めての離床や座位には呼吸状態、胸部症状に注意しましょう。SPO2をつけて初めての離床を行うのも良いでしょう。

  • Homansテスト(ホ―マンズ兆候)

下腿に血栓がある場合、膝を軽く押さえて足関節を背屈させると、腓腹部に疼痛が生じます。これをホ―マンズ兆候と言い、血栓の有無の判断時テストします。

 

ホ―マンズ兆候

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  • Loewenbergテスト(ローエンベルク徴候)

下腿に血圧測定用のカフを巻き加圧すると、100~150mmHgの圧迫で疼痛が生じます。腓腹筋の圧痛は、静脈血栓塞栓症の徴候です。

  • 表在静脈の怒張

表在静脈の怒張はその上位に血流障害があることを示します。

  • 足背動脈・膝窩動脈の触知困難もしくは触知不可

血栓の梗塞により血流が低下するため、動脈触知がしにくくなる、もしくはできなくなります。

 



深部静脈血栓症:予防とケアをふまえた看護計画

OP(観察項目)

TP(ケア)

  • 弾性ストッキング、もしくは弾性包帯による圧迫
  • 間欠的空気圧迫法
  • 他動運動(底背屈運動、膝関節の屈曲伸展の介助
  • 早期離床

EP(教育)

  • 脱水予防として飲水の必要性を説明
  • 底背屈運動の指導

 

 

 

引用参考文献:

肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)