ステルベンって何?患者さんが亡くなったときの流れと対応



シンママナースの マリアンナ です。

 

ステルベンとは、ドイツ語で「死亡」の意味

医療現場でつかわれる医療用語です。

 

この記事ではステルベンのことばの由来、ステルベンの流れや対応などについて紹介しています。

 



ステルベンとは~ドイツ語で「死亡」を意味することば~

 

医療現場ではしばしば「ステルベン」という言葉が使われます。

病院では「患者さんがステった」なんて使われることもありますが、正式な綴りは「Sterben」。ドイツ語で「死亡」を意味します。

 

要は患者さんが亡くなられた、ということ。いわば医療用語ですね。

日本に西洋医学が到来した当初、ドイツ語の文献が多かったので、医療現場ではときどきドイツ語の単語が使われることがあります。

 

わたしは新人ナース時代、この「ステった」をそのままとらえて、「すってんころりん」的な意味かと思い、てっきり転倒転落のことと間違えて認識していました。普通に、説明されないと知らないことばだなーと思うと同時に、知らないことって怖いことだと思い知らされました。

 



ステルベンが起こったときの流れ

 

もし患者さんが亡くなったら、泣いている家族の横でも、看護師は次の展開を頭に入れておく必要があります。

シビアだけど、亡くなられた患者さんと家族に配慮しつつも、「死後硬直が始まること」「家族が悲しみを受容できるような環境整備」など、さまざまなことに配慮しなければなりません。

 

患者さんが亡くなったら、看護師のおおまかな動きとしては

  • 家族で過ごせる時間と環境を整備する
  • 死亡確認の準備と手配
  • 家族が悲しみを表出できる関わり
  • 死後処置とエンゼルメイク
  • 死亡診断書の準備、葬儀場などとの調整

の5つがあるかなーと思います。

 

 

家族で過ごせる時間と環境を整備する

 

患者さんが亡くなったら、なにより家族が最後にお別れをできる十分な時間と環境を配慮しましょう。

 

近年では多床室の相部屋で亡くなるひとも結構いるんですけど、「同じ部屋にたくさんひとがいたから、泣くこともできなかった」なんていう悲しい患者家族の声を聞いたこともあります。

 

正直なところ、急性期病院が多く病院の経営の問題もあるので、状態悪化した患者に「亡くなりそう」という理由だけで、家族と患者が最後のお別れを過ごせるような個室を確保できる病院はなかなかありません。悲しい話ですけどね。

 

だけど看護サイドで可能な限り、ベッドコントロールして個室などに部屋を移動したり、一時的に二人部屋を一人部屋として調整したりと、なんらかの環境整備ができることもあります。個室があいているなら、一時的に「お別れ」する間だけ、部屋を提供することもできます。思う存分愛する家族をお別れできる、悲しみを表出できるのは患者にとっても家族にとっても大切なことなので、できるだけの配慮をしてあげるべきです。

 

死亡確認の準備と手配

 

患者さんの心肺が停止した地点から、患者さんの細胞の働きは停止し、死後硬直が始まっていきます。

2~3時間経過すると内蔵や顎、頸部が硬直し始め、12時間経過すると大きな関節である大関節、心臓から遠い末梢関節が硬直していきます。特に筋肉層が多い世代の硬直は早いと言われています。

参考URL:Wikipedia「死後硬直」

 

一人のひとが亡くなると、タイムリーに手配しなければならないことがたくさんあります。

死亡診断書、葬儀の手配、霊安室の準備、ステルベン処置の準備、それらの家族への説明・同意 等々。

患者家族と別れの時間に配慮して、死後硬直、他患者の看護などの時間の兼ね合いを考えながら、手配をすすめていく必要があります。

 

 

家族が悲しみ・思いを表出できる関わり

 

患者が亡くなったときの、家族の反応は様々です。

家族や親せきが集まってたくさん泣いているひと、御経をあげるひと、まったく泣かない人等・・。

 

一人の家族を失って、いろんな思いがあるでしょう。その思いはひとそれぞれ。

人前では泣いてはいけない、と気を張っているひともたくさんいると思います。

日本人はとくに、弱みを出してはいけない、泣いてはいけない、というような風習があるので、泣きたくてもこらえて我慢するひとは多いです。そういう時、看護師の関わりひとつで自分の気持ちを表出しやすくなることもあります。

 

その家族一人ひとりによって必要な対応は違うかもしれませんが、できるだけ傾聴姿勢で関わり、家族が思いを表現しやすい声かけをしましょう。

 

 

死後処置とエンゼルメイク

 

患者家族が落ち着いたら、家族へ死後処置の説明と同意を得たうえで、処置とメイクを行います。

この場合、家族がどうしてもこの服を着せたい、お化粧は家族も参加したい、など思いを持たれている方もいたり、

そういったエンゼルケア自体をしらない患者家族も意外と多いです。

 

また、「家族が亡くなる」というめったとない体験に対して、戸惑いの気持ちがあるひともたくさんおられます。

 

「一緒にお化粧されますか?」

「着てもらいたい服や、整えてほしい髪型等はありますか?」

 

看護師が少し声をかけるだけでも、閉鎖的なエンゼルケアに家族が参加しやすくなります。

家族が患者と最期に過ごす時間。

家族に後悔が残らないよう、できるだけ家族の思いを引き出して、患者と家族の望むエンゼルケアを行います。

 

死亡診断書の準備、葬儀場などとの調整

 

患者さんが亡くなったという悲しい場面でも、看護師として必要な手配は必ずタイムリーに漏れなく進めていく必要があります。

ステルベンの処置とともに、医師が記入する死亡診断書の作成や、葬儀場へ行くまでの時間の調整、霊安室の確保など、いろんなことを同時進行に行います。

 



ステルベンの看護記録って、何を書けばいいの?

 

患者さんが亡くなったとき、経験が少ないと看護記録上になにを記録すればいいのかわからないことがあります。

病院のルールや、患者のCPRの希望などによっても違いはありますが、基本的に患者さんが亡くなったときに、わたしが「これだけは記録しておきたい」と思うのは以下の4点です。

 

あくまでわたしのマイルールなので、各病院の規定や法律に基づいて看護記録を残すようにしてくださいね。

 

 

  • 亡くなるまでの経過といきさつ

 

患者さんが亡くなったとき、必ず亡くなるまでに至る「エピソード」があります。

 

転倒して頭部打撲し脳内出血で急きょ亡くなったのか。

窒息して予期せぬ急死となったのか。

家族も病院も看取りを把握していて、CPR不要の同意のもとなくなったのか。

訪床して心肺停止を把握したか、それとも心電図モニターなどでHRが低下していくことを把握していたか。

等々。

 

 

DNRでも、CPRフルコースでも、患者さんが亡くなるに関連する観察項目と経過は時系列で記録しておきます。

窒息で亡くなったなら、窒息発見時の状態・体位、バイタル、何を食べて窒息したのか、窒息を起こす直前はどうだったのか、とか。看取り前提で状態悪化していた患者なら、いつからHRが低下して、SPO2が低下していたのか、モニター上の波形はどうだったか、とか。

あとあとトラブルにならないためにも、死亡に至るまでの詳細な記録は重要になります。

 

  • 状態悪化したことに対して、自分が行った看護

 

患者の状態が悪くなっていくことに対して、自分が行った看護は必ずソープの「P」に記録しています。

 

血圧が下がった患者に対して、下肢挙上した

末梢循環が悪くてサチュレーションが測定できないから温罨法を施行した

訪床時レベル低下認めたため、ベッドサイドモニターを装着した

訪床時心肺停止、アレストだったのを確認して心臓マッサージを施行した

 

等々。

どういう状態だったから、こういうことをした。っていうのを看護記録に残しています。

 

 

  • 実際に心停止、呼吸停止、瞳孔散大した時間

 

心肺停止、瞳孔散大した時間は必ず記録します。DNRでも、CPR不要でも。

法律上、死亡確認をできるのは医師だけですが、からだのフィジカル的には肺停止、瞳孔散大している時間が、解剖学的に患者の死亡した時間とも考えられるので。ナースサイドで法的に「死亡確認」はできませんが、「死亡したと思われる時間」を記録することはできます。

とあとトラブルになっても、書類上医師が死亡を確認した時間ではなく、患者が実際に死亡したと思われる時間を把握できるからです。

 

 

  • 医師が死亡確認した時間と状況

 

これをカルテ上書き漏らしたら、大変です。

医師が死亡を確認することで、死亡診断書ができあがり、その患者が亡くなったと法的に処理されるので、すごく重要なところです。

 

呼吸停止、心臓停止、瞳孔散大の全てを○○医師が確認した。

 

これは必ず記載します。法律でその人が死亡したといえる、決定的な場面でもあるからです。

 

 

 



ステルベンとはなにか、のまとめ

 

ステルベンとは、ドイツ語由来の「死亡」の意味。医療現場では患者さんが亡くなったことを示します。

省略されて「ステった」「ステる」なんていう風にも使われることがあります。

 

ステルベンって続くときは続くし、あたるときはあたります。

生死って不思議だなって思うんですけど、満月の日に赤ちゃんがたくさん生まれたり、人間の理解だけでは到底追いつかない科学的な力があるんだなーって思うんです。

 

そうなるとステルベンも、恐らく高齢とかになって、体が弱っている状態のときに、急に気温に冷え込んだりして一気に体調が悪くなるとか。高血圧の状態のときに低気圧になって脳内出血になったり(雨のときって脳外科のオペが多くなったりするんですよ)、いろんな条件も相まって、ステルベンが続くときは続くんだと思うんです。わたしの経験則ですが、寒くなってくる時期って呼吸器系のステルベン結構多くなります。やっぱり、弱ってきているところに急に冷え込むから、急激に悪化しやすいんでしょうね。

 

なかにはステルベンが続くと、お祓いにいく看護師さんとかいます。

そんな不吉がることでもないと思うんですけどねー・・。

 

これは人それぞれ主観があるんでしょうけど。生まれてきた以上、ひとはみんな平等に、どこかで亡くなるときがくる。そう思うと一人の患者さんの最期のときに、看護師として携わらせてもらう、っていうくらいにわたしは捉えています。

 

実際に、亡くなっていく患者さんから、学んだことって本当にたくさんあるんです。目の前で亡くなっていくひとたちと関わるからこそ、人生後悔しないようにやっていかなきゃって思いますからね。人間いつ死ぬかなんて、誰にもわかりませんから。

 

少し長くなってしまった。

ステルベンについての解説は以上です。