シンママナースの マリアンナ です。
経鼻経管栄養目的等でよく挿入されるマーゲンチューブ。
経口での栄養摂取が困難な時などに、鼻から栄養を入れるために挿入します。この記事ではマーゲンチューブの挿入方法や経鼻経管挿入のリスク、あまり知られていないマーゲンチューブを上手にいれる裏技も紹介しています。
マーゲンチューブとは(胃管カテーテルとは)
マーゲンチューブってなに?
マーゲンチューブとは、胃管カテーテルのこと。
経鼻胃管、ngチューブとか呼ばれることもあります。病院によってまちまちですが、略語でMGチューブ、MAチューブなど表記されることも。
マーゲン(Magen)はドイツ語で胃。直訳すると「胃のチューブ」なんです。
イメージ図:根拠がわかる看護義塾「胃管を挿入する目的と観察ポイント」より
マーゲンチューブを挿入する目的ってなに?
マーゲンチューブを挿入する目的は主にふたつ。
- 経管栄養
- 胃内容物のドレナージ・胃洗浄
鼻または口から胃に挿入しますが、多くは鼻からチューブを挿入することが多いです。
マーゲンチューブ、サンプチューブ、NGチューブ・・違いを知りたい!
マーゲンチューブには用途によって種類があります。
経管栄養目的のチューブ
経管栄養を目的とするチューブです。
- マーゲンチューブ
- NGチューブ(nasogastric:経鼻胃の略)
- EDチューブ(elemental diet:成分栄養剤の略)
等
画像引用:ニプロ 栄養カテーテル(PVC製)より
ドレナージ目的のチューブ
ドレナージを目的とするチューブです。
経管栄養目的のチューブと違って、逆流防止弁や三方活栓がついているものもあります。排液管理しやすいように工夫されてる。
- サンプチューブ
等
引用画像:日本コヴィディエン株式会社「セイラム サンプ チューブ」添付文書より
マーゲンチューブは看護師が入れるの?医師がいれるの?
透視下で挿入が必要となるEDチューブは医師によって挿入が必要ですが、その他のマーゲンチューブを医師が入れるか看護師が入れるか、という定義。実は厚生労働省でもこのあたりははっきり定義がされていないようです。
厚生労働省が発する資料「特定行為について(基本的な考え方)のイメージ」では、経管栄養用の胃管の挿入、入れ替えを看護師が行っていると回答した医師・看護師は20~50%程。半数近くの病院で胃管挿入・交換を看護師が行っていることがわかりますね。
医療行為を請求するために設定されている診療報酬制度には、「栄養管理目的のマーゲンチューブ挿入」の項目が作られていないみたいです(2017年3月現在)。つまり、診療費の面でいうと「医療行為」として認められていない、という捉え方になります。
人体に異物を挿入するのに、医療行為としてお金が請求できないことがそもそも問題。経営重視の病院では、人件費削減のため看護師にさせざるおえないのが現状になってしまいますもんね。
診療報酬で「マーゲンチューブ挿入」の定義がないから、
「医療行為じゃないじゃん!看護師がやってもいいだろ!」
っていうひともいるし、
「体に挿入するんだから医療行為だろ!」
っていう意見もあります。
今の段階では、EDチューブなど特殊なマーゲンチューブでない限り、マーゲンチューブの挿入は「誰が入れる」というルールもないので、病院によって定義が異なるのが現状です。ちなみにわたしはマーゲンチューブ挿入の技術は、看護学校で習いました。看護教育課程においても、「看護師がするもの」っていう前提なんでしょうか。
次の章から、マーゲンチューブ挿入の準備と手順について説明していきます。
マーゲンチューブ挿入
目的
マーゲンチューブ挿入の目的は、大きくふたてに分かれます。
- 経管栄養
- ドレナージ
1.経管栄養
嚥下障害、意識障害等が原因で、経口摂取ができなくなった方がチューブ経由で栄養摂取するために挿入します。
2.ドレナージ目的
イレウスや上部消化管出血などで、胃の貯留物を外へ排出したいときに行います。
必要物品
- 胃管(挿入目的、患者の性別や体格によりサイズ(8~16Fr)・種類を選択)太さには規格がある。通常12Fr~16Frを使用することが多い(3Fr=1mm)
- カテーテルチップ型シリンジ(50ml)
- 潤滑剤・キシロカインゼリー
- 聴診器
- ペンライト
- ガーグルベースン
- ディスポーザブルのガーゼ、手袋、エプロン、マスク
- 固定用テープ
- はさみ
マーゲンチューブ挿入で潤滑剤として使われる「キシロカインゼリー」の成分は、リドカインや防腐剤などが入っています。ゼリー中に含まれる成分が原因で、アレルギー反応を起こす可能性も。患者の既往やアレルギー歴はしっかりアセスメントしてから使用しましょう。
マーゲンチューブ挿入の手順
感染予防
実施者・介助者はスタンダード・プリコーションに基づき、装備を整え感染対策をとります。
処置の前後で手洗い・うがいを行い、手指消毒のあとに、ディスポーザブルの手袋、エプロン、マスクを装着します。
患者の承諾
患者に胃管挿入の目的と方法・注意点を説明し、理解・協力を得て、患者の状態を整えます。
目的や方法について患者・家族に十分な説明を行い、不安の緩和に努めましょう。
挿入の準備
寝衣汚染防止の目的で、前胸部に処置用シーツを敷く場合があります(挿入の刺激により、嘔吐を誘発する可能性があるため)。
患者がガーグルベースンを持てるならば持ってもらい、持てないならば嘔気や嘔吐の際にすぐに取り扱える位置に準備しましょう。
ポジショニング
体位を整えます。仰臥位から上半身を30~45度拳上します。
正面を向いた体位をしっかりとります。
下肢を拳上すると身体のずり落ちを防止できます。
可能であれば、座位で挿入する場合もあります。
挿入位置の決定
挿入鼻腔を決めます。鼻腔の閉塞、変形なども確認して、挿入鼻腔を決めます。
会話が可能出れば、患者にとって鼻の通りが良い方を選択します。
入れ替え時には、可能出れば左右交互に入れます。
挿入の長さを決める
マーゲンチューブの長さを決めます。
マーゲンチューブの先端を剣状突起に当てて、挿入側の耳たぶから鼻腔まで引き伸ばし、マーゲンチューブの最終挿入位置をチェックしておきます。
画像:花子のまとめノートさんより
マーゲンチューブって、どれくらいの長さで入れたらいい?
身長160~170cmの成人男性では、鼻孔より約55cmでマーゲンチューブの側孔が胃内に入るといわれています。多くのマーゲンチューブには5~10cm間隔に印がつけられているのでガイドとしましょう。
マーゲンチューブを入れやすいよう準備する
マーゲンチューブの先端に潤滑油、もしくはキシロカインゼリー塗布する。マーゲンチューブの先端から、挿入予定部位の全長にわたって塗布しておいた方が入りやすいです。挿入する鼻孔にも潤滑油、もしくはキシロカインゼリーを塗布する場合があります。
マーゲンチューブの挿入
マーゲンチューブはペンを持つように把持して挿入します。マーゲンチューブを後咽頭まで進めます。マーゲンチューブを鼻孔から挿入するとき、顔面に垂直の方向に挿入することがコツです。鼻背(びはい)に沿って頭側方向に挿入すると入りません。後咽頭までは10~15cmであり、最初に抵抗があり当たるところです。その位置で一旦止めます。
後咽頭部に達したら、顎を引き、唾液を飲み込んでもらい、そのタイミングでマーゲンチューブを一気に進めます。通常呼吸している時は、咽頭蓋は開いているので、そのまま進めると気管に誤って挿入してしまいます。しかし、唾液を飲み込むときには、咽頭蓋は閉じて食道が開くことになるので、嚥下と共に一気に通過させることができます。また、頭部を拳上し、下顎を引くと喉頭蓋が閉じて、マーゲンチューブが気管に入らず食道に入りやすくなります。しかし、顎を引かず、頭部が十分に拳上されていないまま挿入すると、気管に入りやすく患者さんに苦痛を与えてしまします。甲状軟骨(いわゆるのど仏)の上下する動きに合わせてマーゲンチューブを進めると入りやすいです。
喉頭を通過したら、一気にマーゲンチューブを最終挿入位置まで挿入します。喉頭を通過して食道に入ればスムーズに挿入されます。最終挿入位置までスムーズに入らないようであれば、誤って気管に入ったり、口内でトグロを巻いている可能性があります。その場合は患者さんに口を開けてもらい、ペンライトで照らしながら栄養チューブが口腔内でループを作っていないか確認します。トグロを巻いていた場合は、マーゲンチューブの先端が咽頭に来る位置まで引き抜いてから再挿入しましょう。
仮固定と位置確認
挿入予定の長さまで到達したら、マーゲンチューブをテープで仮固定します。仮固定しないと胃内容物の中でマーゲンチューブが浮いている状態の為、胃蠕動運動によってマーゲンチューブが抜けやすいのです。
マーゲンチューブ位置の確認を行います。経鼻胃管の手技では、マーゲンチューブ位置の確認が最も重要な手技となります。誤って気管内に挿入されたまま経腸栄養剤が注入されれば、命に係わります。また、マーゲンチューブの先端が食道内に留まっていたり、胃内に入っていたりしても、側孔の一部が食道内に溜まったままで経腸栄養剤を注入すれば、逆流して誤嚥を引き起こし、誤嚥性肺炎を引き起こします。
マーゲンチューブ位置の確認方法には、胃内注入音の聴取、胃内容物の吸引、X線撮影による確認があり、複数の方法で確認が必要です。
胃内注入音の聴取は、注射器をマーゲンチューブに接続して空気を注入し、聴診器を心窩部に当てて注入音(ゴポゴポ)を確認します。胃内に空気が溜まっている場合は、注射器をマーゲンチューブに接続し、脱気すると良いでしょう。マーゲンチューブが胃内に入っていない場合には、「シュッ」という音が聴取できます。但し、胃内注入音がしても、マーゲンチューブが胃内に入っている保証はありません。マーゲンチューブが食道内に留まっていたり、先端だけが胃内に入っていても聴取できるからです。
胃内容物の吸引は、注射器をマーゲンチューブに接続し、吸引すると、胃内容物(通常は胃液:黄色の液体)が吸引できます。胃内容物が吸引できれば、少なくともマーゲンチューブ先端が胃内にあることがわかります。また、吸引物のpHが酸性であるかどうかはリトマス試験紙で確認する方法があります。
レントゲンで目視による位置確認
X線撮影による確認では、胸部X線撮影を行い、マーゲンチューブの解剖学的な位置を確認します。確認は医師にて行ってもらいます。胸部X線写真で、チューブが気管内に迷入していないこと、マーゲンチューブが胃内に達していること、マーゲンチューブの最も口側にある側孔が噴門を超えている事を確認します。その為には、マーゲンチューブの選択において、X線不透性のラインが付いたものを選択する必要があります。
マーゲンチューブの固定方法には各種ありますが、「抜けにくい事」「自然なマーゲンチューブの湾曲により、鼻翼等の圧迫を避ける事」がポイントです。顔の形や麻痺の有無等、その患者によって適した固定方法は変わります。固定位置や場所を確認しながら固定していくのが良いでしょう。
マーゲンチューブ挿入中の管理と注意事項
マーゲンチューブ挿入で一番注意したいことは、やはり誤嚥による事故です。最悪の場合、窒息を起こして致命的なことにもなりかねないからです。
胃に固定されたマーゲンチューブが、なにかの拍子に抜けたり、ずれたりすることでもし気管に注入食が流れてしまうと、患者さんは窒息します。過去にも医療事故が起こっており、マーゲンチューブで栄養管理をしている患者はとくに注意が必要です。
- マーゲンチューブが抜けないこと
- 患者がマーゲンチューブに不快感を覚えて自己抜去してしまわないよう努めること
の2点はしっかり観察とケアをしていきましょう。
以下からマーゲンチューブ挿入中の管理と注意事項について説明しておきます。
マーゲンチューブの抜去
マーゲンチューブの抜去を防ぐには、
- 使用していない時はマーゲンチューブを耳介にかけて後方に出す
- 届きにくい位置に固定する
- マーゲンチューブの途中にテープを付け、安全ピンで衣服の襟に止める 等々
患者のADLや意識レベルに応じて、一番抜けにくい方法で固定をします。
皮膚トラブル
留置期間が長くなると、鼻や咽頭に炎症を起こしたり、粘膜面、皮膚面のびらん、潰瘍形成の頻度が高くなる。
対策としては、できるだけ細く柔軟なマーゲンチューブを用いる事。長期間の留置例には固定の位置に注意が必要です。
合併症
食道炎は、胃内容物が食道内に逆流し、粘膜を障害することによって起こります。
食道狭窄や通過障害は炎症による腫脹、あるいは潰瘍による瘢痕形成が原因。
一般的に医師指示に応じて、H2受容体拮抗剤やプロトンポンプ阻害剤を投与することもあります。マーゲンチューブを一旦抜去するのも良いでしょう。
消化管穿孔のリスク
マーゲンチューブがスムーズに挿入されない時、無理な操作を行うことにより、消化管穿孔を起こすことがあります。食道気管支瘻や腸管穿孔の対策としては、柔軟なマーゲンチューブの使用、マーゲンチューブの愛護的挿入を心掛ける事です。合併症発症時にはマーゲンチューブ抜去し、静脈栄養に切り替えるようにします。
気管・気管支内誤挿入の恐れ
気管・気管支内誤挿入は、意識がない時に挿入した場合に起こりやすいです。通常気管支内誤挿入時は咳嗽反射が起こるので診断は可能ですが、胃内に挿入されたと思われるも聴診のほか、X線、胃液の吸引によるpH判定、吸引気のCO2濃度測定など複数の方法でマーゲンチューブ先端の位置を確認しておくことが大切です。
裏技!経鼻カテーテルを入れやすくする方法
意識のない(挿管下)薬物中毒や熱傷患者などでどうしても胃管を挿入したいときには、冷蔵させたマーゲンチューブがオススメ。
こしが出て挿入しやすくなります。
胃管がやわらかいと、口腔内でトグロを巻いたりしてしまうので、ある程度の硬さが マーゲンチュ―ブに必要であると思います。
一般には、氷水に胃管を浸けてから挿入するとうまくいくことがあるといわれていますが、この方法でもうまくいくことが多いです。
硬くなりすぎたチューブを無理に挿入しようとすると、穿孔のリスクも高くなるので硬さを自分で手で確認してから挿入するようにしましょう。