認知症「種類別」症状と原因がわかる!~種類に応じたケアと対応~



シンママナースの マリアンナ です。

認知症の概要、アルツハイマー型認知症(若年性含む)・脳血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症の種類について、各症状と適切なケア対応、評価方法や診断についてまとめています。



目次

認知症とは

認知症とは、正常に発達した知能が後天的な変化によって認知機能低下した状態の総称です。一般的には「ボケ」「痴呆症」などといわれることもあります。

脳の器質的変化により、脳の記憶力、判断力、理解力、認識、見当識などが障害され、自立した日常生活を送れなくなる・人間関係を保てなくなる特徴があります。

 

現在、日本における65歳以上の高齢者人口約2800万人のうち、認知症の割合は以下の図のようになっています。

 

認知症人口の図

画像:生命保険文化センター

 

280万人は認知症と診断され、介護保険制度を利用しています。

160万人は要介護認定をうけておらず、380万人は潜在的に認知症を発症しているか、今後介護が必要になるであろう認知症予備軍にあたります。

 



認知症の初期症状

認知症の初期症状は、記憶障害から始まることが多いです。

数分前のことを忘れる(近時記憶障害)、時間や場所がわからない(見当識障害)、家族や友だちの顔や名前を認識できないなどの症状がみられます。認知症の鑑別は、認知症の場合症状が進行性であることです。一過性のせん妄や加齢に伴う正常な認知力低下の場合、症状は進行しません。また認知症の初期症状を発症したとき、抑うつや意欲低下等がみられることがあります。

認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)

画像:認知症フォーラム.com

 



認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)

認知症には種類がありますが、共通してみられる中核症状と、中核症状に関連した周辺症状(BPSD)があります。

 

認知症の中核症状

  • 記憶障害

今食べたものを忘れる、今約束したことを忘れる、料理しようとして火をつけていたことを忘れる等

  • 見当識障害

ここがどこかわからない、家に帰れなくなる、時間や日付の概念がわからなくなる等

  • 判断力低下

次に何をしていいのかわからなくなる、服のボタンをかけられなくなる等

  • 失行

ふたを開けられなくなる、お風呂に入れなくなる、使えたはずのリモコンの使い方がわからない等

  • 失認

理解できたはずの「もの」が認識できなくなる、食べ物じゃないものを食べる等

  • 失語

うまく言葉に出せない、間違った単語を話す、同じ言葉を繰り返してしまう、意味の通じない言葉を話す等

 

認知症の周辺症状(BPSD)

認知症の中核症状に伴い、日常生活において以下のような周辺症状が見られます。周辺症状は近年、「認知症の行動と心理症状」を表すBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という名称で表現されるようになっています。

 

周辺症状(BPSD)一覧

  • 抑うつ
  • 不眠
  • 不安・イライラなどの焦燥
  • 食行動異常
  • 徘徊
  • 幻覚
  • 妄想
  • 暴力・暴言などの攻撃的行動

 



個人によって認知症症状が違う理由

ひとくちに認知症といっても、その症状は千差万別です。中核症状やBPSDに共通する点があっても、感情的になるひと、暴力的になる、意欲がなくなる、物をとられたなどの被害妄想が強くなる等・・認知症はひとによって出てくる主な症状に差異があります。

この個人差がある理由は、認知症の原因となる脳疾患が起こっている部位によって、症状が変わるからです。

 

脳の部位と機能の関係

画像:アットホーム介護さんより

 

脳の部位名称とその機能の特徴

画像:御所ヶ谷ホームクリニックさんより

 

上の「脳の部位と機能の関係」の図の通り、脳には部位によって司る機能が違います。

脳の萎縮や血管障害による梗塞巣が起こる部位によって、低下する脳機能に違いがあるため認知症症状には個人差が生じます。

 

 



認知症の種類に応じたケアと対応

認知症にはその原因や症状により種類があります。主な認知症の4病型「アルツハイマー型認知症(及び若年性アルツハイマー型認知症)・脳血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症」の概要について説明します。

認知症における種類のおおよその割合は、

アルツハイマー型認知症が40%、

脳血管性認知症が40%、

非アルツハイマー型認知症が20%

といわれています。

病型によって障害される脳の部位に特徴があったり、典型的症状に特徴があり、それぞれに適切なケアのポイントがあります。

 

 

アルツハイマー型認知症(DAT)及び若年性アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症とは、脳の神経細胞の脱落により、脳が委縮してしまうことが原因でおこる認知症です。記憶に関与する海馬や視覚認知に関与する側頭連合野、空間認知に関与する頭頂連合野などに病変が出やすい特徴があります。少数に遺伝性が認められているが、詳細な原因はすべて解明されていません。比較的ゆっくり進行していきます。

若年性アルツハイマー型認知症は、64歳以下でアルツハイマー型認知症を発症することを言います。最も若くであれば最年少18歳から起こりますが、若年性アルツハイマー型認知症の平均年齢は51歳と言われています。50代前後でも十分に発症しうる認知症といえます。

主な症状

初期症状は、徐々に進行する記憶障害や見当識障害から始まりますが、比較的自立したレベルのひとが多く、初期段階では気づかれないことが多いです。食べたものを食べていないと主張したり、ものの名前が出てこなくなったり、約束した時間や日づけを忘れたり、認識できなくなったりします。症状は徐々に増悪し、簡単な動作がスムーズにできなくなる、尿・便をもらしてしまう(失行)、家や部屋を間違える(失認)、判断力の低下や物事を順序通りにできなくなる(遂行障害)等の症状が目立つようになります。

ケアと対応のポイント

  • 障害されている認知機能(ADL(日常生活動作),IADL(独居機能)、BPSD(心理・行動)等)を多角的に捉え評価し、ケア方法をチームで統一する。
  • 認知症治療薬、良好な人間関係、レクリエーション、自立の促し等、認知症の進行を遅らせることにフォーカスして援助を行う。
  • 体調不調、環境の変化が認知症症状を増悪させるので、健康管理と安定した生活環境の提供を心がける。
  • 患者の理解に応じて、ゆっくりと丁寧に説明を行う。

 

アルツハイマー型認知症、どのように症状が進んでいくか

アルツハイマー型認知症の進行の指標として、軽度から高度に進行するまで約3.5年の時間がかかるといわれています。アルツハイマー型認知症の症状レベルについては、日常生活の様子や機能により、アルツハイマー型認知症の病期を判定する評価表「FAST」があります。FASTの指標詳細は「FAST」を参照にしてください。

「アルツハイマー型認知症 fast」

画像:品川心療内科(品川駅港南口)こころの平和

 

脳血管性認知症(VaD)

脳血管障害に伴い、脳に梗塞巣ができてその部分の脳機能が失われる(もしくは低下する)ことが原因で起こります。脳血管障害発生後、急激に症状が現れることがあります。

血管性認知症の症状の進み方

画像:血管性認知症とは

 

主な症状

障害部位の機能低下は急激で著明であることが多いですが、障害部位以外の機能は比較的正常に保たれていることが多くみられます。具体的な症状は障害される部位によって違いますが、記憶力低下などが著しいアルツハイマー型認知症と比べて、意欲低下や遂行機能低下が目立ちます。人格や感情的側面の機能は、比較的保たれていることが多いです。

ケアと対応のポイント

  • 脳血管疾患の再発防止と健康管理を行う。
  • 麻痺や降圧剤による血圧変動と、転倒転落の防止に努める。
  • ADLの低下、言語障害に対して、継続的なリハビリに取り組む。
  • 身体的・精神的な活動性をあげる関わりを持つ。

 

レビー小体型認知症(DLB)

レビー小体型認知症は、レビー小体(神経細胞にできるたんぱく質)が大脳皮質や脳幹に集まってしまい、その部位の神経細胞が破壊されて減少しているため、認知症の症状が発症します。症状の進行にムラがあります。

主な症状

レビー小体型認知症の特徴的な症状は、記憶力低下や失認、失行を特徴的とするほかの認知症と違い、幻視症状が見られます。後頭葉の血流が低下することが多いため、視覚認知障害が生じるためです。例えば、「虫がいる」「知らない人がいる、覗いている」「死んだはずのひとが見える」長いケーブルなどを蛇と言ったり、壁のシミや模様を顔を言う等、見えるはずのないものが見える幻視症状がでることが特徴的です。被害妄想や嫉妬妄想等の妄想がみられることも多く、「物をとられた」「あのひとがわたしを殺そうとしている」等の発言が効かれるようになります。他の認知症と比較して、認知力がしっかりしているときと、ぼーっとしていたり、被害妄想などの症状をきたしているときと認知症状の出現にムラがあるもの特徴です。

また、視覚認知障害、視覚構成障害、自律神経障害やパーキンソン3大症状(安静時振戦、アキネジア(無動)、筋強剛)がみられることがあります。

ケアと対応のポイント

  • 視覚障害のため、段差や壁を認識することができなくなることがあるため、安全対策を行う。
  • 症状にムラがあるため、日々の認知症状に合わせたケアや関わりを持つようにする。
  • 症状の変動パターンを把握して、その人に応じたケアプランを立てる。

 

前頭側頭型認知症(FTD)

前頭側頭型認知症は、前頭葉と側頭葉の委縮によっておこる認知症で、若年性にもみられる認知症です。ピック病・運動ニューロン疾患型・前頭葉変性症等を含む「前頭側頭葉変性症」の1種です。
前頭葉は思考力の機能を司る部位です。感情コントロール、理性的思考、行動計画、状況判断等の機能や、意欲向上に関連しています。側頭葉は言語理解、記憶、及び聴覚、嗅覚も司っている部分です。
これらの部位が委縮することにより、機能も障害されることになります。

主な症状

初期症状として人格症状が出現します。他の認知症と比較して、比較的記憶力の低下は著明ではありませんが、人格や理性、思考等に関する前頭葉や側頭葉の萎縮がみられることから、暴力暴言などの易怒性や、万引きや窃盗などの反社会的行為が目立つようになります。そのほかの特徴的症状としては、 脱抑制(衝動や感情を抑えることができない)や無関心・無気力、常同行為(同じことを繰り返す)、食異常行動、注意の転導性亢進(注意散漫であること)が見られます。

ケアと対応のポイント

  • 言動パターンを把握とアセスメント、チームで一貫したケアや声かけを行う。
  • 常同行動や食異常行動、反社会的行動に対して強制的・圧力的な態度をとらず、怒ったり、暴力的にならないような関わり方をする。
  • 反社会的行動は、「なぜ悪いのか」本人は理解できていないことが多いため、公的機関から処罰を受けても効果がない。反社会的行動をとらないよう見守りとケア介入が必要。
  • 食異常行動に伴い、本人が食べたいままたべていると高血糖や高血圧などの原因になるので、食べ物管理を徹底する。

 

 

認知症のチェックと診断~アセスメントツールを使用した評価方法~

認知症の診断は、アセスメントツールを使ってチェックしていきます。

現在の医療現場で使用されている認知症アセスメントツールは以下の通りです。

質問方式アセスメントツール

  • 長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)
  • ミニメンタルステート検査(MMSE)

観察方式アセスメントツール

  • FAST(Functional Assessment Staging)
  • 初期認知症徴候観察リスト(OLD)
  • CDR

 



長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)

いくつかの質問を行い、点数を加点し計算、満点を30点とする。

評価方法は、

20点以下で「認知症疑い」

21点以上で「非認知症」

と評価する。

 

長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)質問表

1 【年齢】

お歳はいくつですか? (2歳までの誤差は正解とする)

  0 1
2 【時間の見当識】

今日は何年何月何日ですか? また何曜日ですか?(年月日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ)




曜日
  0 1
0 1
0 1
0 1
3 【場所の見当識】

私たちがいまいる場所はどこでしょうか?
(自発的にでれば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?のなかから正しい選択をすれば1点)

0 1 2
4 【3つの単語の直後再生】

これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。

(以下の系列のいずれか1つで, 採用した系列に○印をつけておく)
1: a)桜 b)猫 c)電車
2: a)梅 b)犬 c)自動車

  0 1
0 1
0 1
5 【計算】

100から7を順番に引いてください。
(100-7は?、それからまた7を引くと? と質問し、最初の答えが不正解の場合、打ち切る)

(93)
(86)
  0 1
0 1
6 【数字の逆唱】

私がこれから言う数字を逆から言ってください。
(6-8-2、3-5-2-9を逆に言ってもらう、3桁逆唱に失敗したら、打ち切る)

2-8-6
9-2-5-3
  0 1
0 1
7 【3つの単語の遅延再生】

先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。
(自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合以下のヒントを与え正解であれば1点)
a)植物 b)動物 c)乗り物

a: 0 1 2
b: 0 1 2
c: 0 1 2
8 【5つの物品課題】

これから5つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったか言ってください。
(時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なもの

0 1 2
3 4 5
9 【言語の流暢性】

知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。
(答えた野菜の名前を右欄に記入する。途中で詰まり、約10秒間待っても出ない場合には そこで打ち切る)
0~5=0点, 6=1点, 7=2点, 8=3点, 9=4点, 10=5点

0 1 2
3 4 5
合計得点

 

 



ミニメンタルステート検査(MMSE)

認知症の評価指標として1975年米国(フォルスタインら)で作成された。30点満点の11の質問からなり、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力などをカバーした評価指標である。

評価方法は、

24点以上で「正常」

10点未満で「高度な知能低下」

20点未満で「中等度の知能低下」

と診断する。

 

ミニメンタルステート検査(MMSE)質問内容と配点

認知症診日時:5点

  • 今年は何年ですか。
  • いまの季節は何ですか。
  • 今日は何曜日ですか。
  • 今日は何月何日ですか。

現在地:5点

  • ここは、何県ですか。
  • ここは何市ですか。
  • ここは何病院ですか。
  • ここは何階ですか。
  • ここは何地方ですか。

記憶:3点

相互に無関係な物品名を3個聞かせ、それをそのまま復唱させる。

1個答えられるごとに1点。すべて言えなければ6回まで繰り返す。

7の減算:5点

100から順に7を引いていく。5回できれば5点。間違えた時点で打ち切り。

あるいは「フジノヤマ」を逆唱させる。

想起:3点

3で示した物品名を再度復唱させる。

呼称:2点

時計と鉛筆を順に見せて、名称を答えさせる。

読字:1点

次の文章を繰り返す。

「みんなで、力を合わせて綱を引きます」

言語理解:3点

次の3つの命令を口頭で伝え、すべて聞き終わってから実行する

  • 「右手にこの紙を持ってください」
  • 「それを半分に折りたたんでください」
  • 「机の上に置いてください」

文章理解(1点)

次の文章を読んで実行する。

「眼を閉じなさい」

文章構成(1点)

何か文章を書いてください。

図形把握(1点)

次の図形を書き写してください。

 

FAST(Functional Assessment Staging)

FAST(Functional Assessment Staging of Alzheimer’s Disease)は、日常生活レベル(機能)によってアルツハイマー型認知症の病期を診断する評価表です。大きく7つのステージにわけられ、当てはまるステージ別に評価されます。

FAST(Functional Assessment Staging of Alzheimer's Disease) FAST(Functional Assessment Staging of Alzheimer's Disease)

画像:若年性アルツハイマー病の妻と弥次喜多道中

 



初期認知症徴候観察リスト(OLD)

OLD(Observation List for early signs of Dementia)は、オランダで作成された認知症の評価指標です。認知症の早期発見につなげていくことを目的にしたチェックリストになります。OLDは観察式の診断方法であり、患者が協力的ではなくても、周囲の人からの情報提供だけで評価できます。

OLDの評価方法は、

12項目のうち4項目以上が明らかにあれば認知症を疑います

記憶、忘れっぽさ

1. いつも日にちを忘れている(今日の日付がわからないなど)
2. 少し前のことをしばしば忘れる
3. 最近聞いた話を繰り返すことができない

語彙、会話内容の繰り返し

4. 同じことを言うことがしばしばある
5. いつも同じ話を繰り返す

会話の組み立て能力、文脈理解

6. 特定の単語や言葉がでてこないことがしばしばある
7. 話の脈絡をすぐに失う(話があちこちに飛ぶなど)
8. 質問を理解していないことが答えからわかる
(質問に対する答えが的外れで、かみあわないなど)
9. 会話を理解することがかなり困難

見当識障害、作話、依存

10. 時間の観念がない
(時間がわからないなど、午前・午後の区別がつかないなど)
11. 話のつじつまを合わせようとする
12. 家族に依存する様子がある(本人に質問すると家族の方を向くなど)



CDR

CDR(Clinical Dementia Rating)は観察式のなかでも、一般的に最も使われている認知症重症度評価法です。
評価方法は

CDR=0が「異常なし」

CDR=0.5が「認知症の疑い」

CDR=1が「軽度認知症」

CDR=2が「中等度認知症」

CDR=3が「高度認知症」

と判定します。

CDR評価表

 

 



認知症の検査

認知症の診断は、「身体所見、現在の症状」、スケール等を用いた「認知機能のインタビュー検査」「画像診断」を総合的ににて診断します。

このうち、画像診断においては、CT(コンピュータ断層装置)、MRI(核磁気共鳴コンピュータ断層装置)、SPECT(脳血流シンチグラフィ)、PET(ポジトロン断層撮影)などがあります。画像検査を行うことで、脳萎縮の部位やルツハイマー型や脳血管性、レビー小体型、前頭側頭型など「認知症の種類」、どの程度病状が進行しているのか等、脳の状態や進行程度の判断もすることができます。

 



認知症の治療と薬

認知症の薬剤治療は、認知症の種類によって異なります。

アルツハイマー型認知症の治療薬

  • アリセプト
  • メマリー
  • レミニール
  • リバスタッチ、イクセロン
  • 抗精神病薬(BPSDに対して)
  • 抗うつ剤(うつ状態に対して)
  • 催眠薬(不眠症状に対して)

脳血管性認知症の治療薬

(脳血管障害の再発予防に対して)

  • 降圧薬
  • 抗血小板薬
  • 心臓細動治療
  • 脂質代謝改善
  • 抗精神病薬(BPSDに対して)
  • 抗うつ剤(うつ状態に対して)
  • 催眠薬(不眠症状に対して)

 

非アルツハイマー型認知症の治療薬

  • アリセプト

 



「認知症のもの忘れ」と「加齢によるもの忘れ」の違い・特徴

加齢による物忘れの特徴

認知症による物忘れの特徴

体験の一部分を忘れる 全体を忘れる
記憶障害のみを認める 記憶障害に加え、判断障害、実行機能障害など複数の障害を併発する
物忘れを自覚している 物忘れの自覚はない
探し物を努力してみつけようとする 探すより「誰かに取られた」などの被害妄想を訴えることがある
見当識障害はない 見当識障害がある
物忘れに対し、取り繕うことはしない 認知症状に対し、嘘やごまかしなどの取り繕いがみられる
日常生活や人間関係に支障をきたさない 日常生活に人間関係に支障きたす
きわめて徐々に進行する あきかな進行性である

 

 



認知症とせん妄の違い・特徴

認知症と間違えられやすい症状として「せん妄」があります。

せん妄は、身体疾患の症状や治療経過に伴って一過性に生じる症状であることに対し、認知症は永続的に出現する症状です。

 

せん妄 認知症
発症 急激 緩慢
日内変動 夜間・夕方に増悪 変化は乏しい
初期症状 錯覚・幻覚・妄想・興奮等があり、初期症状の発症が明確である。 記憶力低下
持続 数時間や数週間 永続的
知的能力 動揺性 変化がある
身体疾患 あることが多い 個人差がある
環境因子 関与している症例が多い 関与していない

 

 

 

 



認知症の予防

認知症は、脳の器質的変化が原因です。アルツハイマー型認知症のように原因解明がされていない疾患については、完全な予防は難しいといえるでしょう。しかし、認知症を発症しても、ケアや関わり次第で進行を遅らせたり増悪しないようにすることは可能です。

認知症進行の予防は、認知症の種類を理解した上で、その認知症に応じたケアを提供することが重要になります。

 



物忘れ外来とは~認知症の早期発見と進行予防~

物忘れ外来とは、認知症の初期症状である「物忘れ」、すなわち記憶障害症状に着目して早期に診断を行い、認知症早期治療と認知症進行予防にフォーカスした診療科のことです。

認知症は基本的に進行性であり、初期症状に気づかないまま適切な治療を行わないと、症状は増悪していきます。気づいたときには重症となり、介護が必要になるケースが多いのが現状です。認知症をよく見ている医療従事者でなければ、老化症状の正常な「物忘れ」と、認知症の初期症状は、見分けがつかないことがほとんどです。ものわすれ外来では、認知症独自のアセスメントツール(認知症のチェックと診断~アセスメントツールを使用した評価方法~ 参照)を使って、診察をしたり、脳の画像診断を行ったりして、総合的に診断をつけていきます。

高齢者がよく物忘れをするようになったら、認知症かどうかを診断してもらうためには、この物忘れ外来で一度診察を受けるとよいかもしれません。

 



コラム:ひとりで介護しようとしないで~認知症の家族ケア~

京都認知症母殺害心中未遂事件とは

京都市伏見区桂川河川敷で2月1日、無職片桐康晴さんが10年以上認知症を患っていた母親を殺害し無理心中を図った。
片桐さんは認知症の母親の介護で生活苦に陥り、母同意のもと母を殺害。片桐被告は母を殺害した後、自分自身をナイフで切り付け自殺を図ったが発見され一命を取り留めた。片桐被告は両親と3人暮らしだったが、95年に父が死亡した頃から、母に認知症の症状を発症し、一人で介護してきた。
母は2005年4月ごろから昼夜が逆転し、徘徊で警察に保護されるなど症状が進行。片桐被告は休職してデイケアを利用したが介護負担は軽減せず、9月に退職した。3回以上にわたり生活保護受給相談のため福祉事務所へ相談へいったが、失業給付金などを理由に認められなかった。介護と両立する仕事は見つからず、12月に失業保険給付がストップ。カードローンの借り出しも限度額に達し、デイケア費やアパート代が払えなくなり、2006年1月31日に心中を決意。最後の親孝行にと、同日に車椅子で母を連れて京都市内を観光した。

2月1日早朝、同市伏見区桂川河川敷の遊歩道で「もう生きられへん。此処で終わりやで。」などと言うと、母は「そうか、あかんか。康晴、一緒やで」と答えた。

片桐さんが「すまんな」と謝ると、母は「こっちに来い」と呼び、片桐被告が母の額にくっつけると、母は「康晴はわしの子や。わしがやったる」と言った。この言葉を聞いて、片桐被告は「母親が苦しんで死なないよう、自分の手で心中させる」と殺害を決意。母の首を絞めて殺し、自分も包丁で首を切って自殺を図った。

冒頭陳述の間、片桐さんは背筋を伸ばして上を向いていた。肩を震わせ、眼鏡を外して右腕で涙をぬぐう場面もあった。
裁判では検察官が片桐さんの献身的な介護を行っていたことと、認知症介護のため失職等を経て追い詰められていく過程を供述。
片桐さんは裁判で「母の命を奪ったが、もう一度母の子に生まれたい」という供述し、目を赤くした東尾裁判官が言葉を詰まらせ、刑務官も涙をこらえるようにまばたきするなど、法廷は静まり返った。

 

認知症介護の限界~家族のマンパワーの限度~

2006年2月1日、認知症患者の家族の問題を明るみにさせた「京都認知症母殺害心中未遂事件」。福祉制度の落とし穴が生み出した悲劇。この事件をきっかけに、高齢化する日本社会における「認知症介護」の影が表出してきたといえるでしょう。

 

認知症本人と周囲の安全を守るためには、24時間体制で見守りや介護をするひとが必要になります。認知症の症状は多種多様で、ひとによっては2人以上の介護者を必要とする認知症患者もいます。

家族の人数が多いとか、経済的に裕福であるとか、多くの条件をクリアしなければ、認知症高齢者を家族だけのパワーで介護するのはとても困難であり、介護する家族の負担もとても大きいものになります。優しくて責任感のあるひとほど、自分の責任だと自分を追い込んでしまいがちで、なかなか積極的にあちこちの相談窓口にいけないケースも多々あります。

 

相談窓口は生活保護だけじゃない~多くの窓口へ相談を~

介護のため仕事をできないひとは生活保護をうけるに等しいひとでありますが、不正受給問題も関連して生活保護の審査も厳しくなっているのが現状です。例え24時間認知症の介護で生活保護が必要だとしても、一度や二度生活保護受給を申請ではスムーズに生活保護を受給できないこともあります。

認知症介護で、経済的な問題、介護のマンパワーに対する悩みがあるときは、たくさんの相談窓口へ相談するようにしましょう。あちこちに相談しているうち、専門員から生活保護を受けれるようアプローチしてくれることもあります。もし認知症介護で悩んでいるひとがあれば、相談窓口はたくさんあるし、いろんなところへ積極的にいったほうがいいことを教えてあげてください。

認知症介護の相談窓口として、市町村に設置される地域包括支援センター、高齢者総合相談センター、居宅介護支援事業所、福祉事務所等が、介護全般について相談にのってくれます。

 

認知症介護はたくさんのアドバイスと協力を得る必要があります~互いに尊重しあえる社会のために~

認知症介護は、家族のマンパワーだけではなかなか成り立たないのが現状です。

現在では介護保険サービスも充実してきており、介護保険で受けることができる介護サービスや施設の利用、訪問介護や訪問看護を利用した在宅介護など、極力ともに過ごす家族の負担を減らしつつ、認知症高齢者を尊重した生活を送ることが出来ます。

もし認知症の家族のことで悩んでいるなら、複数の専門的機関に相談するようにしましょう。また近所で認知症高齢者の介護で悩んでいるひとがいたら、ぜひ専門機関に連絡し彼らの安全を確保してあげてください。

 

認知症に対する知識が普及し、多くのひとが認知症の症状とケアを理解して、「京都認知症母殺害心中未遂事件」のような、悲しい悲劇がもうおこらないことを願います。

認知症介護